歌舞伎町と共に育った新宿ミラノ座と、そのDNAを継ぐ109シネマズプレミアム新宿。長年の想いが詰まった“唯一無二の映画館”が目指す地点は?
「映画を楽しむ街という側面を守っていきたい」(廣野)
――多くの映画館が軒を連ねた時代から歌舞伎町という街自体が大きく変化してきたと思います。“歌舞伎町”という街の現在について思うことをお聞かせください。
横田「2000年前後までは、シネコンではなく単独で営業している映画館が歌舞伎町だけで15劇場。キャパシティにして7600席ありました。当時それぞれの支配人たちが集まって、一緒になにかできないかと話し合ってできたのが“シネシティ” だったんです。それまでは歌舞伎町という街にある映画館の一つという立場だったものが、そこから徐々に街ぐるみで一緒になり、映画館で街を盛り上げ、街からも盛り上げてもらう。そんな関係に変化していきました。
でもそこから映画館が一つ閉館し二つ閉館し、最後にはミラノ座もなくなりました。一時期は街全体が閑散としていて、あまりいい印象を持たれていないこともありました。ですが、いまはコロナ禍を経て、人の流れもだいぶ変わってきたと思います。街を歩いている人たちもインバウンドや若い人たちが増えて、昔は昼間でも歩くのを躊躇ってしまうような雰囲気だった場所も、若い子が1人で歩いても大丈夫なように変わってきた。どんどんと街が変わり、誰でも来やすい歌舞伎町になったような印象を受けています」
廣野「歌舞伎町に毎日通うようになって感じることは、奥が深いといいますか懐が深いといいますか、いろいろな方々やいろいろなお店があって発見の尽きない街。それは横田さんをはじめとした街を盛り上げようとしていた方々が築いたものがあるからで、映画を楽しむ街という側面も大事に守っていけたらいいなと思います」
久保「入社当時、私もミラノ座にいたことがあるので昔の歌舞伎町をよく知っていますが、だいぶ変わってきたなと感じています。この東急歌舞伎町タワーを作ることで、ビルに合わせて道路も整備されたり街灯が作られていったり、より歩きやすい街になったのではないでしょうか。まだ少し怖い街だとイメージを抱かれている方も、来てみたらきっとビックリすると思います。圧倒的なパワーがあって、とても魅力的な街になっていますから」
廣野「目の前の広場は、週末や夜になるとすごい人で賑わいますからね」
久保「一時は若い人たちがたむろして社会問題にもなりましたが、広場に活気が生まれればなにか変わっていくのではないかという期待もあります。また歌舞伎町が一つになって街ぐるみで盛り上げていこう、そんな動きも出てきています」
廣野「そうですね。東急歌舞伎町タワーの開業前から、音楽や食のイベントを開いたり、映画関係だと『東京リベンジャーズ2』のジャパンプレミアを華々しく行ったりしました。ただ広場があるだけでなく、いつもおもしろいことをやっている場所を目指していくことが、我々の思いでもあるので、これからも色々と取り組んでいく予定です」
久保「『東京リベンジャーズ2』のプレミアの時には、この建物の6階から8階にある劇場「THEATER MILANO-Za」で本編の上映を行なったんです。かつてのミラノ座のような大劇場を復活させたいという思いもありましたが、やはり一つの大劇場だけで経営していくのは難しいのが現状です。でもTHEATER MILANO-Zaでは900席ぐらいのキャパシティに大きなスクリーンもあって映画が流せる。普段は演劇作品などを上演していますが、その合間をねらって今後も映画のイベントを行なって、大劇場で映画を観る楽しみを継承していければと考えています」
――最後に、今後も“プレミアム”なシネコンを作っていくのか等、劇場としての展望をお聞かせください。
久保「まだ正式な発表段階には至っていないのですが、今後もこの109シネマズプレミアム新宿のような特別な形態の映画館を作っていく可能性は十分にあります。そのためには、最初のチャレンジとなったこの新宿で、いま浮き彫りになっているいくつもの課題を一つずつ解決していく必要があります。
アンケートの結果やSNSでの反響を分析していると、まだまだ多くの人に足を運んでもらわなければいけない段階にあると思っています。アンケートでは、若い世代のお客様からの反応がすごく良いのですが、毎回映画を観る時に選んでもらえるかといえば難しいでしょう。だからこそ、より多くの若い世代の人たちにこの映画館を体験してもらえる機会を、我々の方から発信していくことが必要です。以前、坂本さんの作品を30歳以下の方限定で無料招待するオールナイト上映をしたり、『エヴァンゲリオン』など庵野秀明さんの作品を上映するなどの施策を行ってきましたので、今後も積極的に若者向けのイベントを続けていきたいと思っています」
廣野「作品単位でも、この映画館の上質な上映環境でこの映画が観たいという皆さまの思いに応えられるような企画を考えていきたいです」
久保「もちろん坂本さんの関連作品は、今後もずっとなにかしら上映していくと思います。旧作でも興行できる作品を探したりなど、坂本さんの事務所と連絡を取り合いながら、ここの映画館ならではのものとして続けていければと思います」
廣野「35mmフィルムでの上映も含めて、映画文化を継承していくことが坂本さんの思いであり、同時に我々の思いでもあります。それを大切にしていきながら、映画を映画館で観ることの楽しさを伝えられるように努力してまいります」
取材・文/久保田 和馬