兵器として生まれたロボットの暴走を描く「PLUTO」悲しみや憎しみを超えてたどり着く普遍的なメッセージ

コラム

兵器として生まれたロボットの暴走を描く「PLUTO」悲しみや憎しみを超えてたどり着く普遍的なメッセージ

ねらわれる7体の世界最高水準のロボットたち

ここからは主要キャラクターであるロボットたちを、漫画「PLUTO」を基に紹介していく。第39次中央アジア紛争に関わったことで、何者かにねらわれることになった7体の世界最高水準のロボットたち。彼らが戦場の経験からなにを得てどう行動していったかを知ると、ロボットである彼らに共感できるかもしれない。

ゲジヒト…数々の難事件を解決してきた凄腕捜査官

ユーロポール特別捜査官のロボット、ゲジヒト。本作では彼が主人公となる
ユーロポール特別捜査官のロボット、ゲジヒト。本作では彼が主人公となるNetflixシリーズ「PLUTO」独占配信中

ドイツで妻と共に生活するユーロポール特別捜査官のゲジヒト。数々の難事件を解決したロボットとしても知られている。しかし、たびたび悪夢にうなされたりフラッシュバックを起こすことがあり、自分の記憶に疑問を持っている。今回の事件を捜査中、ロボット史上唯一人間を殺害したロボット「ブラウ1589」への尋問を要請。物語が変化するきっかけとなる。

アトム…世界最高峰の人工知能を持つ平和の使者

アトムは、世界トップクラスの高度な人工知能を持つ
アトムは、世界トップクラスの高度な人工知能を持つNetflixシリーズ「PLUTO」独占配信中

天馬博士によって、亡くなった息子の代用品として造られたアトム(声:日笠陽子)。しかし博士の思うようにはならず、結果サーカスに売られるという過去を持つ。現在は日本のトーキョーシティーで両親と妹のウランと共に暮らし、小学校へ通っている。世界最高水準のロボットのなかでもトップクラスの人工知能を持ち、より人間に近いロボットと言える。第39次中央アジア紛争の際には実戦には参加せず、”平和の使者”として扱われていた。

モンブラン…大きな身体に優しい心を備えた詩人

スイス林野庁に所属するモンブラン(声:安元洋貴)。森林保護担当官を務めながらアルプスの山岳ガイドや遭難者の救助を行う。森を愛し、多くの市民から森の木々と語り合うことができる詩人として慕われる存在だった。しかし、謎の存在によって一番最初に破壊され、現場に残された「2本の角」のようなオブジェが事件のカギとなる。

ノース2号…姿を隠し、戦場へ強い拒否を示す執事

戦いから離れるため、スコットランドで隠居生活をしていた音楽家ポール・ダンカン(声:羽佐間道夫)の執事として仕えるノース2号(声:山寺宏一)。ロボット嫌いのポールからは粗野な扱いを受けるものの、日々の暮らしを重ねていくなかで音楽に興味を示し、ピアノを弾いてみたいという思いが募っていく。執事の仕事をしている時は、マントのようなもので身体を覆っている。

ブランド…家族を支える豪快な大黒柱

おおらかな性格のブランド(声:木内秀信)は、トルコでパンクラチオンスーツを使用した格闘技で活躍。ESKKKRトーナメントチャンピオンとなり、不敗神話を続けることで民衆を魅了している。「ラッキーマン」を自称し、試合に勝つためには「運」が必要と語ることも。ロボットの妻と5人の子どもと共に平穏な生活を送ることが願い。ヘラクレスは無二のライバルであり親友。

ヘラクレス…ストイックで、ギリシアの英雄と讃えられる闘神

ブランドと同じく、パンクラチオンスーツを使用した格闘技では負け知らずのヘラクレス(声:小山力也)は、ギリシアでは”闘神”の名で親しまれる国民的英雄。彼が勝利した際に取る闘神のポーズを模したモニュメントがパルテノン神殿の近くに設置されている。ブランドとはこれまでにも戦っているが、勝敗はついていない。

エプシロン…戦災孤児と共に平穏な生活を送る光の戦士

天馬博士とも交流を持つニュートン博士が生んだエプシロン(声:宮野真守)は、太陽の光を利用した光子エネルギーが動力源。7体の世界最高水準のロボットのなかでは唯一、第39次中央アジア紛争への派遣を拒否している。その理由は「この戦いに正義はない」というものだった。だが、その戦後処理として現地へ行くこととなり、その後戦災孤児を引き取りオーストラリアで一緒に暮らしている。

プルートゥ…正体不明の謎の巨大ロボット

大きな2本の角を持つ大型のロボット
大きな2本の角を持つ大型のロボットNetflixシリーズ「PLUTO」独占配信中

黒い身体に2本の角を持つロボット、プルートゥ(声:関俊彦)。「地上最大のロボット」では、最初から世界最高水準のロボットたちをねらう役割を担って登場するが、「PLUTO」ではその名称も姿もなかなか出てこないため、本作を読み進めながらプルートゥに関する情報を手に入れ、自分ながらの推測をしていくのも本作の楽しみとなる。また、手塚版とは異なる背景や設定などが用意されており、本作の肝の一つと言える。なお、アトムの妹ウラン(声:鈴木みのり)と接触することでプルートゥの内面が見えてくるエピソードは本作にもあり、原作以上にウランの役割が重要になっている。

「PLUTO」に込められた普遍的なメッセージ

ゲジヒトは、本物の人間のように感情を表すアトムと交流するうちに変化していく
ゲジヒトは、本物の人間のように感情を表すアトムと交流するうちに変化していくNetflixシリーズ「PLUTO」独占配信中

「PLUTO」では登場人物も背景設定も大きく変わっているが、手塚治虫が描いた「地上最大のロボット」と同じテーマやメッセージが流れている。それは古臭いものではなく、時代が変わっても不変だ。もちろん「PLUTO」でブラッシュアップしたり新たに付け加えられた部分でも感情を揺さぶられ、考えさせられるはずだろう。アニメ「PLUTO」から、いまだからこその映像表現だけでなく、本作が長い間愛されてきた理由を感じてみてほしい。


文/小林治

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