『つんドル』穐山茉由監督×漫画家・鳥飼茜の特別対談!「この質問、訊かれたらすごく嫌ですよね(笑)」

インタビュー

『つんドル』穐山茉由監督×漫画家・鳥飼茜の特別対談!「この質問、訊かれたらすごく嫌ですよね(笑)」

仕事なし、男なし、貯金なしの崖っぷちアラサーの安希子(深川麻衣)が、友人の勧めで56歳のサラリーマン"ササポン"(井浦新)と奇妙な同居生活を送る、まさかの実話を基にした最新作『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(通称『つんドル』)が11月3日(金・祝)に全国公開を控える穐山茉由監督にフォーカスした特別連載。
第2回は「おはようおかえり」「先生の白い嘘」「サターンリターン」の著者である、漫画家の鳥飼茜をゲストに迎え、表現や仕事への向き合い方を語り合ってもらった。

映画を撮る時は、日常的なノリの中にふと見えるリアルな感情を描くことが多い(穐山)

【写真を見る】「映画制作における他者との交わりが大きな意味をもっている」と語る穐山監督
【写真を見る】「映画制作における他者との交わりが大きな意味をもっている」と語る穐山監督撮影/杉映貴子

――『つんドル』をご覧になって、鳥飼先生はどう感じましたか?

鳥飼「そもそもモノづくりの現場において、その場の全員が一つの方向に向かえること自体がとても幸運なことだと私は思っているのですが、『人間の善良さに懸けたい』という穐山監督や原作者の方の想いを、キャストやスタッフの皆さんがきちんと理解したうえで現場に参加されているんだろうな、というのが作品を観て伝わってきました」

穐山「鳥飼先生にそんなふうに言ってもらえるなんて、とてもうれしいです」

鳥飼「漫画の制作過程においては、どうしたって作家の采配が一番重要なので、『漫画は漫画家のもの』だと思われますが、実際にはアシスタントさんたちの力があってできるものなので、自分の名前だけ世に出ることが心苦しく感じることもあって。映画の場合はどうですか? 関わる人が漫画の世界よりはるかに多い現場で、穐山監督のような若い女性監督が周囲に舐められずに最後まで仕事を貫徹するために心掛けていることが知りたいです」

穐山「たしかに『映画は監督のものだから』と言われることもありますが、映画監督は作品の責任者として物事をジャッジするのが仕事というだけで、決して偉いわけではないと思っています。私の場合、自分では思ってもみなかったものが現場から出てきた瞬間に立ち上ってくる興奮が、どこかクセになっているところがあるんです(笑)。なので、自分に出来ないことはスタッフやキャストの方々に素直に言って協力してもらいますし、そうしやすい環境を作りたいと思っています。

そもそも映画という表現媒体は自分だけでコントロールできない要素が多いし、ブランドPRという仕事をしていながらも、日常生活では人付き合いがあまり得意ではない自分にとって、映画は重要なコミュニケーション・ツールでもあり、映画制作における他者との交わりが大きな意味をもっているから、“映画は監督のもの”という考え方にはどこか抵抗がありつつも、映画より少ない制約のなかでなんでもゼロから作り上げられる漫画家の方がうらやましく見えるところもあって。

私が映画を撮るときは、日常的なノリの中にふと見えるリアルな感情を描くことが多いのですが、鳥飼先生の作品を拝読すると、人間のダークな部分に真正面から向き合って描かれている作品も多い印象があって。自分だったら、描いている最中に登場人物の感情に吞み込まれてしまいそうになるんじゃないかと思ったりもするんです。私の場合、自分の興味関心が、『人間のダークサイドを直視したい』という域にまで到達していないと言うか、正直、今後そこに向かうかどうかも現段階ではわからないのですが、鳥飼先生はご自身の作品のなかで人間の負の感情を正面から描くこととどのように向き合われていますか?」

穐山監督の最新作『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(通称『つんドル』)は、11月3日(金・祝)より公開!
穐山監督の最新作『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(通称『つんドル』)は、11月3日(金・祝)より公開![c]2023 映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」製作委員会


鳥飼「いや、穐山監督まで、無理してそっちの方向に行かなくてもいいかもしれないです(笑)。というのは、実は私自身も別に最初から人間のダークサイドを描きたくて描いているわけではなくて、『人間の良い部分をフィーチャーしたい』とか、『たとえいかなる場面でも、人の善良さによって世界が良い方向に動いていくことを信じたい』みたいな思いがあるんです。もっと軽い言葉で言うなら、いわゆる『“ハッピーオーラ”みたいなものが周りの人たちに伝播していくことを信じたい』という気持ちもあって。

実際に過去の作品で試してみたこともありますが、やってみたら自分には向いていなかったというか、疲れてしまったというか…。どうしても“いい人ぶっている”感じがしてしまって、できるだけ自分に真摯であるために、人間の多面性を描くようになってきた感じなんです。善良な部分も隠している部分も、私はどっちも見たいし見せたい。それが結局自分に正直であるということなんだろうな、という方向に、だんだん気持ちが寄っていたんだと思うんです。でも、そうすることでしんどくなってしまう人もきっといると思うし、 世の中にハッピーなものを広めていってくれる人がいないと、すごく暗い世界になってしまうから(笑)」

穐山「なるほど。そうだったんですね」

■鳥飼茜
大阪府出身。2004年に漫画家デビュー。主な作品は『おんなの家』『先生の白い嘘』『サターンリターン』ほか。仕事や育児の悩みをつづった『漫画みたいな恋ください』などエッセイも執筆している。


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