カンヌ監督賞受賞のトラン・アン・ユンが最新作『ポトフ』で音楽を使わなかった理由とは?「料理は豊かな音であふれている」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
カンヌ監督賞受賞のトラン・アン・ユンが最新作『ポトフ』で音楽を使わなかった理由とは?「料理は豊かな音であふれている」

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カンヌ監督賞受賞のトラン・アン・ユンが最新作『ポトフ』で音楽を使わなかった理由とは?「料理は豊かな音であふれている」

現在開催中の第36回東京国際映画祭で24日、「ガラ・セレクション」部門に出品されている『ポトフ 美食家と料理人』(12月15日公開)が上映。本作でメガホンをとり第76回カンヌ国際映画祭で監督賞に輝いたトラン・アン・ユン監督と、主演を務めたブノワ・マジメル、アートディレクター/衣装を務めたトラン・ヌー・イェン・ケーが上映後のQ&Aに登壇した。

“食”を追求し芸術にまで高めた美食家のドダン(マジメル)と、彼がひらめいたメニューを完璧に再現する料理人のウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)。2人が生みだした極上の料理は人々を驚かせ、ヨーロッパ各国で評判に。ある時ユーラシア皇太子から晩餐会に招待されたドダンは豪華なだけで論理もテーマもない大量の料理にうんざり。“食”の真髄を示すべく、最もシンプルな料理であるポトフで皇太子をもてなそうとするのだが、そんな矢先ウージェニーが倒れてしまい…。

【写真を見る】フランス映画界きっての二枚目スター、ブノワ・マジメルが告白「撮影前に10キロも増えた…」
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会場に集まった大勢の観客から大きな拍手で迎えられ登壇した3名。トラン監督は本作の成り立ちについて、「1冊の本(マルセル・ルーフの『The Life of Passion of Dodin Bouffant,Gourmet』)に出会ったことが始まりでした」と振り返る。「そのなかで登場人物たちが料理について語っているのが印象的で、それを映画にしたいと考えました。そして僕自身が歳を重ねたこともあり、長く続いている夫婦の関係を作品のなかに込めたいと思いました。映画ではうまくいっている夫婦を描くことは難しく、ちょっとした賭けでした」と述懐。

一方、私生活でも料理を作ることが多いというマジメルは「誰かのために料理を作るということは、愛の告白のようなものだ」とロマンティックに語り、「(ドダンを演じる上で)可能な限り料理をするという動作に心を込めようと思いました。ピエール・ダニエールというすばらしいガストロノミー監修がついてくれたこともあり、思っていたよりもシンプルに演じることができました。映画冒頭の長い料理シーンは、まさしく監督が振り付けをしたようなリズム感。みんなで作り上げた共同作業でした」と自信をのぞかせる。

前作につづいてフランスを舞台にした作品を手掛けたトラン・アン・ユン監督
前作につづいてフランスを舞台にした作品を手掛けたトラン・アン・ユン監督

Q&Aでは、劇中に一切音楽が使われていない理由についての質問が。トラン監督は「このような映画で音楽を使わないのは珍しいかと思います」と得意げな表情を浮かべながら説明していく。「料理をする時にはたくさんの仕草が連続して存在しており、豊かな音があふれている。それを聞いた時に、音楽を排除することが自然の流れだと直感的に感じました。実際に編集をしてみれば、すでにストーリーの伴奏をする音楽性がそこにはあった」。

また、役作りについて質問されたマジメルは「ダニエールが誠実なかたちで素材に向き合っているのを見て、僕もそれを踏襲しようと思いました」と回答し、続けざまに「この映画のお話をもらった時に監督に対し、『料理家やグルメな人物を体現する時に俳優は恰幅が良いことが求められる。もっと細身の俳優でもいいんじゃないか?』と提案をしました。その時は私もいまより細身だったんですが、映画の準備のために料理を作ったり食べたりしていたら、撮影時には10キロも増えていて…。イェン・ケーが用意してくれた衣装が入らなくて何回も直してもらいました(笑)」と会場の笑いを誘った。

主人公のドダン役を演じたブノワ・マジメル
主人公のドダン役を演じたブノワ・マジメル

それを受けてイェン・ケーからは、衣装の準備期間が25日間しかなかったという衝撃的なエピソードが語られる。「現代映画でも短期間の準備は大変なのに、これはコスチューム劇。求められた以上はできるだけシンプルで的確なものを心がけ、結果的にとても豊かな美術が出来上がったと自負しています。衣装のコンセプトは白黒のイメージ。その分料理に色彩をふんだんに入れていくことにしました。美しい映画を目指したわけではなく、正確で的確なものを作りだせば自ずと美しさは出てくる。そう考えて作っていました」と作品づくりへの強い信念を明かした。


そしてQ&A前日に行われたオープニングセレモニーのレッドカーペットにも参加した3名は、日本の観客たちと直接触れ合うことができた喜びをあらわに。最後にトラン監督は「この作品は、愛する喜びや食べる喜びが満載の作品です。日本の観客の皆さんには、この作品を通してそれらを再確認いただけてらうれしいです」と満面の笑みで呼びかけていた。


取材・文/久保田 和馬

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