他者と自分を見つめ直すことになる『正欲』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、朝井リョウが多様性を謳う社会に投げかけたベストセラーの実写化、アベンジャーズの最強ヒーロー、キャプテン・マーベルが主役のシリーズ第2弾、同性愛が悪とされていた時代に起きた実際の裁判を基にしたヒューマンドラマの、どんな状況でも諦めない主人公が登場する3本。
“気づき”をもたらしてくれる…『正欲』(公開中)
直木賞作家、朝井リョウの同名小説を、数々の賞に輝くテレビドキュメンタリーや『二重生活』(16)、『前科者』(22)などの問題作で知られる岸善幸監督が映画化。不登校の息子をめぐって妻と衝突を繰り返す検事の啓喜(稲垣吾郎)と世間との関わりを避けるように暮らす販売員の夏月(新垣結衣)。水に対してただならぬ欲望を持つ夏月の中学時代の同級生、佳道(磯村勇斗)などなど、本作に登場する主要人物の5人は、生活環境も容姿も違うけれど、生きづらさを感じている点は共通している。ただ、その生きづらいと感じるポイントはみんなバラバラだし、それぞれが抱える苦悩やコンプレックス、偏向した欲望は多くの人には理解できないものだったりもする。
でも、彼らは決して特殊な人たちではない。当たり前のことだけれど、この世界には同じ人間などいないし、求める幸せのあり方も好きなものや嫌いなもの、得意とするものや苦手なものもすべて違う。それに、私たちの誰もが大なり小なり、悩みやコンプレックスを抱えていたりもする。なのに、人は何でも決めつけたがる。ちょっとでも特殊な性的指向があったり、変わった言動をすると「普通じゃない」と言い、「マイノリティ」という言葉で片づけがちだ。だか、本当にそうだろうか? そこに鋭くメスを入れ、ある“気づき”を持たらしてくれるのが本作だ。これを観たら、世の中や他人に対する目線が変わるかもしれない。自己肯定感が増すかもしれない。他者と自分を見つめ直すことになるのは間違いない。(映画ライター・イソガイマサト)
登場キャラの魅力を最大限に生かしきる…『マーベルズ』(公開中)
『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19)ではサノスをパワーで圧倒したアベンジャーズ最強のヒーロー、キャプテン・マーベル最新作。謎の敵ダー・ベン(ゾウイ・アシュトン)が、宇宙を結ぶジャンプポイントを使って星々で暗躍。その魔の手が地球へと迫るなか、キャプテン・マーベル(ブリー・ラーソン)はモニカ・ランボー(テヨナ・パリス)、ミズ・マーベル(イマン・ヴェラーニ)とともに立ち上がる。“孤高のヒーロー”キャプテン・マーベルが本作ではチームを結成。しかし親友マリアの娘モニカとは過去をめぐる確執があり、高校生のミズ・マーベルは経験値の低い新人とバランスの悪さは否めない。しかもダー・ベンはミズ・マーベルと互角以上のパワーを持ち、初戦から3人は大苦戦を強いられる。
ダイナミックなバトルはもちろん、3人が心身ともにひとつのチームになる姿も本作の見どころだ。そんな本作のキーパーソンがミズ・マーベル。彼女(と家族)の屈託のなさやキャプテン・マーベルへの揺るぎない“推し愛“が、シリアスな物語にユーモアや明るさを加味。2人の“お姉さん”に負けじと頑張る姿に思わず声援を送ってしまう。主人公はじめ登場キャラの魅力を最大限に生かしきる、実にMCUらしい作品だ。(映画ライター・神武団四郎)
作り手の怒りや気概を強く感じさせる…『蟻の王』(公開中)
寡作ながらカンヌ、ヴェネチアなどで受賞を重ねて来た巨匠ジャンニ・アメリオの、まだまだ瑞々しさが色濃く感じられる社会派青春映画だ。奇しくも同じイタリアから、同性愛嫌悪をテーマに据えた『シチリア・サマー』(11月23日公開)が、しかもともに実話を元にした2作が同時期公開される。両作とも“恋する悦び“や“トキメキ”を爽やかに純度高く捉えるがゆえに一層、作り手の怒りや気概を強く感じさせる。イタリアでは2016年に同性婚を認める法案が可決されたが、にもかかわらず…な現実に訴えるため、あるいは“事件”をなかったことにさせまいとする芸術に携わる者の矜持か。いずれにしても事件の根っこを直視させる、これらの佳作は必見である。
本作が描くのは、1964年に詩人、劇作家が“教え子をたぶらかした”と教唆罪で逮捕された“ブライバンティ事件”。教え子側の母親と兄が、2人が暮らすアパートへ乗り込み、ブライバンティを逮捕させ、息子を矯正施設に送るのが衝撃的だ。しかも頑なに弟を否定する兄は、かつてブライバンティに憧れていた嫉妬も絡み、そこにも人間の醜さがチラ見えする。骨頂は、ブライバンティの人間性を否定するために開かれる裁判のバカバカしさ!それには胸を掻きむしりたくなるが、2人の再会と別れ――これが人生か…と噛みしめさせるラストに、せつなくもフッと清涼感が漂う。ルイジ・ロ・カーショ(『ペッピーノの百歩』(04)主演のイケオジ)、レオナルド・マルテーゼ(本作でデビュー)の魅力も絶大!(映画ライター・折田千鶴子)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。
構成/サンクレイオ翼