信長に背いた逆賊?それとも正義を貫いた高潔な武将か?『首』へと至る明智光秀の変遷をたどる

コラム

信長に背いた逆賊?それとも正義を貫いた高潔な武将か?『首』へと至る明智光秀の変遷をたどる

11月23日(木・祝)より公開される、北野武19本目の監督作『』。これは織田信長(加瀬亮)の跡目争いを巡って、羽柴秀吉(ビートたけし)、明智光秀(西島秀俊)、徳川家康(小林薫)が暗躍する、壮大なスケールのエンタテインメント時代劇である。

西島秀俊がとにかくモテまくる明智光秀を熱演!
西島秀俊がとにかくモテまくる明智光秀を熱演![c]2023 KADOKAWA [c]T.N GON Co.,Ltd.

このなかで中心的存在になるのが明智光秀。映画では家臣の光秀が信長を討った「本能寺の変」がクライマックスになるが、歴史的にはこの変がなぜ起こったのかは諸説あって、いまだに決定打の説はない。原作と脚本も担当した北野監督は、その裏に戦国時代にはノーマルだった武将同士の“衆道(男色)”の契りが関係していたのではないかという大胆な説を持ち込んで、いままでにない本能寺の変を描いている。

【写真を見る】織田信長から詰め寄られ、表情を強張らせる明智光秀
【写真を見る】織田信長から詰め寄られ、表情を強張らせる明智光秀[c]2023 KADOKAWA [c]T.N GON Co.,Ltd.

この映画が異色なのは、とにかく光秀がモテること。彼は信長に対して反乱を起こした荒木村重(遠藤憲一)と恋人関係にあり、信長からも言い寄られる。実際の光秀は信長よりも年上で、決して美男とは言えなかったようなので、あくまでフィクションとしての解釈だが、光秀を演じているのが西島秀俊なのでこの描き方には説得力がある。

主君を討った逆賊から悲劇の武将へ…様々な明智光秀を描いてきたNHK大河ドラマ

かつて光秀は、天下統一直前に主君の信長を討った逆賊というイメージが強かった。だが、池波正太郎が脚本を書いた映画『敵は本能寺にあり』(60)で初代・松本白鸚が、信長の小姓・森蘭丸の策略によって精神的に追い詰められ、信長を討つことを決める悲劇の武将を演じたのを一つの予兆として、NHKの大河ドラマによってそのイメージは時代と共に変化していった。


大河ドラマに光秀が初登場したのは緒形拳主演の「太閤記」(1965年放送)で、演じたのは佐藤慶。人物的に陰影のある知的な光秀を演じた。“光秀がかわいそう”というイメージを作ったのが、「国盗り物語」(1973年放送)で近藤正臣が演じた光秀。狂気を孕んだ暴君になっていく信長に対して、世の平安を求める正義漢の光秀が、徹底して信長に排斥されていくこの作品は、高潔な性格ゆえの謀反という説を強調していた。

悲運の武将といった感じの「春日局」(1989年放送)の五木ひろし、繊細な性格が災いした「信長 KING OF ZIPANGU」(1992年放送)のマイケル富岡の光秀も印象的だったが、“人間・明智光秀”を掘り下げたのが「秀吉」(1996年放送)である。竹中直人扮する秀吉と若い頃からの友人でライバルという関係性の光秀を、村上弘明が演じている。ここでの光秀は妻や母親を大切にする男で、やがて優しさゆえに信長と心がすれ違って、主君と距離を置くようになっていった。

強烈な印象を残したのが「利家とまつ 加賀百万石物語」(2002年放送)の萩原健一。萩原の光秀は狂気の策士という雰囲気で、最後は取りつかれたように反町隆史演じる信長を本能寺へ討ちに行く。「江 ~姫たちの戦国~」(2011年放送)における市村正親の重厚な光秀も注目を浴びたが、なんと言っても光秀を主役に据えた「麒麟がくる」(2020~21年放送)の長谷川博己が、近年における光秀のイメージを決めた。誠実で知的、しかし自分の意見をはっきりと言う豪胆さも併せ持つその光秀像は、裏切り者の逆賊というかつてのイメージを完全に払拭した。

作品情報へ

関連作品

  • 3.7
    5426
    北野武監督が、信長の跡目を巡って愛憎渦巻く本能寺の変を描く戦国エンタテインメント
    U-NEXT Netflix