北野武、最新作『首』のテーマは「日本のドラマ、映画で描かれないものを選んだ」
監督最新作『首』(11月23日公開)の公開を控える北野武が11月15日、日本外国特派員協会にて記者会見に出席した。第76回カンヌ国際映画祭でカンヌ・プレミア部門に選出された本作は、北野監督が構想に30年を費やした戦国スペクタクル超大作。西島秀俊、加瀬亮、浅野忠信、大森南朋ら豪華キャスト陣が集結し、北野自身も羽柴秀吉役で出演し、“本能寺の変”を壮大に描く。また北野組初参加の中村獅童のほか、木村祐一、遠藤憲一、桐谷健太、小林薫、岸部一徳らが歴史上の重要人物に扮している。
日本外国特派員協会が約20年もの間ラブコールを送り、ついに実現した本会見では、映画監督、お笑い芸人、アーティストなど多彩な才能を発揮する”世界のキタノ”に世界中の記者から日本のエンタテインメント、芸能界についての話題を中心に様々な質問が飛んだ。
漫才で芸能の世界に入った理由について北野監督は、「一番(この世界に)入りやすかったから」と回答。また映画監督、お笑い芸人、アーティストなど様々なジャンルに挑戦してきたのは「自分に一番合うものはなにかを模索していたから」と話し、「いまのところ、一番得意なものが見つからず(笑)、いまに至るという感じ。正直どのジャンルにも自信もなく満足もしていません」と謙遜していた。
最新作『首』で“本能寺の変”をテーマにしたのは、日本のテレビや映画が描かないものを描きたかったから。「大河ドラマなどではかっこいい役者で、歴史的には綺麗ごとを並べたような戦国の物語を描くけれど、信長と森蘭丸、信長と前田利家の関係など男性同士の関係が描かれることはない。でも当時の日本は(お仕えする)その人に命を懸けるという意味での“男色”があったと思う。性的な関係とは違う意味で」と丁寧に解説。「戦国時代はもっとドロドロとした男同士の関係があり、裏切りなども同時に起こったからいろいろな事件になった。そんなことを描きたいと思ったのが30年前。ちょうど、たまには時代劇を撮ろうと思ったタイミングだったので」と本作の制作に至った経緯を話し、「試写会の段階ではかなり高い評価をいただいているので、非常に喜んでいます」と笑顔で報告していた。
役者として暴力的なキャラクターからコメディ要素満載のライトなキャラクターまでを演じる際の切り替えについて問われると、「シリアスとお笑いは表裏一体。お笑いというのは悪魔だと思っています。例えば、結婚式やお葬式にはお笑いが忍び込んできて、(シリアスな場を)お笑いに持っていくこともよくあること。チャップリンの言葉じゃないけれど、ホームレスの人がバナナの皮を踏んで滑って転んでも笑いは起きないけれど、大統領や地位の高い人が同じことをすると笑いが起きる。暴力映画も同じで、シリアスなシーンを撮っているとお笑いの要素、悪魔が忍び寄ってくるんです。今回の映画もそうだけど、フィルムには映っていなくても、現場ではたくさんの笑いが起こっていました」と撮影裏話を明かすと同時に、「いま、暴力映画におけるお笑いという映画の制作にも入っています」と進行中の撮影に触れる場面もあった。
『首』で織田信長を演じた加瀬亮への演出について「僕の映画に出ている時は、優しくて気のいい青年のイメージではなく『アウトレイジ』では懲悪なインテリなどと、かなり冒険してもらっています。今回は、セリフを完全に頭の中に入れてもらって、ワンテイクで撮るというプレッシャーをかけました(笑)。100メートル競走のように突っ走ってほしいとお願いして。アスリートのような芝居をさせましたが、見事にやってくれたと思っています」と充実感を漂わせていた。
日本の芸能界が大きく揺れていることについて、「エンタメの世界にずっといるけれど、メディアと大手プロダクションの癒着は昔から目に余るものがありました。だからタレントは大きな事務所に入って守ってもらおうとするのかなと思っています」と正直な気持ちを語る。なぜこんなことがまかり通るのかと疑問に思うことは、つい最近までたくさんあったとし「それは日本の芸能界のダークな部分。外国ではそういうことがあるのかどうかわからないけれど、自分にとってはそういう世界でよくぞここまでやってこられたなという安心感というか、達成感というのかな。ただ、日本の芸能の闇の部分がどのように取り除かれていくのかは、非常に興味があります」といまの思いを率直に話していた。
北野は会見の最後に「一言だけいいですか」と切りだし、「20年もの間、僕にラブコールを送ってくれたとのことですが、招待を受けていたのを知ったのはつい最近です。当時、僕の耳に届いていたら喜んで来たと思います」とニッコリ。「日本外国特派員協会が嫌いなわけではない?」という質問に「ないない!」と即答。会場から大きな拍手が沸き起こると、少し照れた表情を浮かべながら、ぺこりとお辞儀をして会場を後にした。
取材・文/タナカシノブ