ナポレオンを翻弄した妻役に抜擢!タフガイたちにひけをとらないヴァネッサ・カービーの存在感
情感豊かなヒューマンドラマでも実力を発揮!『私というパズル』ほか
こうしてブロックバスター作品に出演して世界的女優としての地位を築く一方、情感豊かなヒューマン作品でもその実力をあますことなく披露している。
『私というパズル』(20/Netflix)は、『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』(14)のコルネル・ムンドルッツォ監督によるヒューマンドラマ。赤ん坊を死産した女性の苦悩の道のりを描き、カービーは主人公であるマーサを体当たりで演じた。リアリティ満点の出産シーンや、焦燥感にかられる悲痛な横顔など、揺れ動く主人公の心の機微を繊細に描きだし、ヴェネチア国際映画祭では女優賞をGET!
同様に、19世紀半ばのアメリカの田舎を舞台とする『ワールド・トゥ・カム 彼女たちの夜明け』(20)では、退屈で閉塞的な田舎で惹かれ合う農家の2人の妻のうちの一人を、そしてヒュー・ジャックマン主演作『The Son/息子』(22)では心に病を抱える義理の息子を自宅へと迎え入れる若妻役を気丈に演じるなど、一筋縄ではいかない難役を見事に演じきっている。
ナポレオンを翻弄する歴史的人物を熱演!『ナポレオン』
どんな役柄でも人を惹きつけずにはいられないカービーの魅力と実力が炸裂したのが、『ナポレオン』のジョゼフィーヌ役だ。本作はフランス皇帝ナポレオン・ボナパルトの激動の日々と妻ジョゼフィーヌへの愛を新解釈で描く歴史スペクタクル。稀代の戦略家として類まれな軍事的才能を持つナポレオンの意外な人物像に新鮮さを覚えつつも、最愛の妻ジョゼフィーヌとの愛憎劇に夢中にさせられる。
ナポレオンはジョゼフィーヌを溺愛したことで知られているが、カービーは危うさをはらんだジョゼフィーヌの妖しい魅力を力強くも甘い眼差しで表現。自分に不利な状況に陥っていながらも、ナポレオンの心の弱い部分を刺激するような言葉と口調で形勢逆転するしたたかな女性として体現している。
本作は上映時間158分の劇場版のほか270分バージョンも製作されていることが公表されているが、長編バージョンではナポレオンに出会う前のジョゼフィーヌに焦点をあてたエピソードが追加されているという。時を超えて名匠までも虜にし、今なお世界で語り継がれるジョゼフィーヌ。まさにハマリ役となったヴァネッサ・カービーの熱演を堪能してほしい。
文/足立美由紀