鈴木亮平、TAMA映画賞で最優秀男優賞を受賞『エゴイスト』は「10年以上経たないと、客観的に観られない」
映画ファンの祭典「第33回映画祭 TAMA CINEMA FORUM」にて国内映画賞のトップバッターとして注目を集める「第15回TAMA映画賞」の授賞式が11月25日にパルテノン多摩で開催され、本年度最も心に残った男優を表彰する最優秀男優賞に輝いた佐藤浩市、鈴木亮平が登壇した。
鈴木は、「『エゴイスト』において、愛とエゴの狭間で葛藤しながらも恋人とその母に注ぐ献身的な愛は繊細で切なく時に痛々しいほどの表現力だった。入念な準備と深い洞察により強さと脆さを併せ持った主人公・浩輔は実在感あるものとして観る者の心に刻まれた」と評価され、最優秀男優賞の受賞を果たした。高山真の自伝的小説を松永大司監督が映画化した『エゴイスト』は、14歳で母を失い、田舎町でゲイである自分を押し殺しながら思春期を過ごした浩輔(鈴木)が、シングルマザーである母を支えながら暮らすパーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚)と出会い、惹かれ合っていく姿を描く物語。
トロフィーを手にして大きな笑顔を見せた鈴木は、「全員が集中して一つになって、ただただその場で生きさせていただいた。あの瞬間は本当にあったんだろうかと思うような、夢のような期間でした」と撮影を振り返り、「このような形で評価していただき、とてもうれしく思います」と喜びを噛み締めた。
お祝いとして、松永監督が駆けつける場面もあった。「おめでとうございます」と鈴木と握手を交わした松永監督は「この役に対して、すごく準備をしていた。チーム全体でこの作品のテーマで向き合った時に、鈴木亮平が背負うものは大きかったと感じている。『おめでとう』という言葉にいろいろな気持ちが入っています」と鈴木の心情に寄り添いながら、「本当に努力の人だと思います」と役者としての姿勢に惚れ惚れ。「どの役に対しても真摯に向き合って、一生懸命にリサーチをする。舌を巻いた。すごかった」と鈴木について手放しで絶賛した。
心のこもった言葉を届けた松永監督に頭に下げた鈴木は、「(撮影期間について)あまり覚えていない。出来あがった映画を観ても、いまだに客観的に観られない。ただただ、氷魚くんと阿川(佐和子)さんと生きた日々を『あ、撮られていたんだ』と思うような撮り方をしてくださった。10年以上経たないと、客観的に映画としては観られないんだろうなと思います。それくらい役者だとか、演技をしているということを忘れる環境をスタッフ全員で作ってくれた」と特別な映画になったと告白。「自分もだんだん年齢を重ねるに従って、先輩方がいかにすごいのかを思い知るようになってきました。大先輩の方々が作り上げてきた役者道のようなものがあるならば、その名に恥じないよう、自分もそれを継いでいけるような俳優になっていきたい。映画館に行って、鈴木の映画を観たいなと思ってもらえるような俳優になりたい」と力強く語り、大きな拍手を浴びていた。
佐藤は、『春に散る』『せかいのおきく』『仕掛人・藤枝梅安2』『大名倒産』『キングダム 運命の炎』『ファミリア』『映画ネメシス 黄金螺旋の謎』と今年数々の映画に出演した。同映画祭からは「俳優・佐藤浩市ならではのにじみ出る渋さと颯爽と放つ華が、若手俳優の魅力も最大限引き出し、作品を輝かせ続けている。時を重ね磨き上げられた刃のような役者魂は、今後も日本映画界を切り開いていくに違いない」と受賞理由について紹介された。沢木耕太郎の同名小説を原案に、再起を懸けボクシングに打ち込む2人の男を描いた『春に散る』では、横浜流星と師弟関係を演じていたが、佐藤は「僕らも若いころにボクサー役をやったことがあるけれど、上半身のカットが多かった。横浜くんは空手をやっていたので、(ボクシングとは)足のさばきが違う。それをイチからやり直して、引き画でもちゃんとボクシングをやっているように見えるようにした。すごかった」と横浜の役作りを絶賛した。
作品を次々と重ねているが、オファーを受ける決め手となるのは「人間関係しかないです」と笑顔を見せた佐藤。「やりたいか、やりたくないかというより人間関係です」と正直に話して会場も大笑い。「現場のなかでどうしても一番、年長組になってきた。その時にどのような立ち位置でいるか。あまり眉間にシワを寄せているだけでもよくないし、かといってあまり緩くなってもいけない。そのあたりは意識してやっています」と現場でのあり方について、変化もあった様子。
またこの日は、『せかいのおきく』の阪本順治が駆けつけ、30年以上の付き合いだという2人が照れ笑いを浮かべながら握手を交わした。さらに同作に主演し、最優秀女優賞の受賞者として映画祭に参加していた黒木華も一緒にステージにあがった。黒木は「約10年前にも共演して、右も左もわからない私に優しく接してくださった。10年ぶりにこうしてまた親子役でいられるというのは、奇跡のようなこと。また近くでお芝居が見られてありがたい限りです」としみじみ。佐藤も「若い俳優さんとご一緒して、それから数年経ってまたご一緒した時にどうなっているのか。それを感じることも、僕らの世界の楽しみですからね」と目尻を下げていた。
そして特別賞を受賞したのは、劇団ヨーロッパ企画のオリジナル長編映画第2弾『リバー、流れないでよ』と、宮崎駿監督の10年ぶりの最新作『君たちはどう生きるか』。
ステージには、宮崎監督からの「歴史ある映画祭で特別賞をいただき、大変光栄に思います。この映画の完成には、構想から7年の時間がかかりました。僕もずいぶん歳を取って長い時間仕事に集中することができなくなっているのに、映画を完成させ公開できたのは、支えてくれた多くのスタッフとキャストの皆さんのおかげだと思います。心から感謝を申し上げます。映画はまだ上映されていますので、ひとりでも多くの人が映画館に足を運んでいただけたらうれしいです」というメッセージが到着。宮崎監督が本作についてコメントを寄せたのは、今回が初めてのこと。代読したスタジオジブリ執行役員の野中晋輔は「多面的な人。次から次へとアイデアが浮かんでくる。唯一無二でユニークな人だなと思う」と宮崎監督の人柄を分析し、「いまは、頭を空っぽにしようとしているところだと思います。宮崎監督にとって『君たちはどう生きるか』はまだ終わっていない。ただヒットしたことに関しては非常に安堵していまして、お客さんに大変感謝しています」と近況を伝えていた。