観ているこちらを夢の世界へと誘う『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、魔法のチョコレートを作りだすウィリー・ウォンカの若き日を描く前日譚、過酷な宿命を背負ったある女性の壮絶な半生を描いた舞台の映画化、問題児たちを主役に据えた映画撮影の動向を描くヒューマンドラマの、主演の演技力が光る3本。
エンタメに求められる要素が満遍なく盛り込まれた…『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(公開中)
以前の映画化でのウィリー・ウォンカといえば、ちょっぴり屈折した性格が持ち味だったが、その若き日を描く本作では意外や意外、チョコレート作りへの野心をまっすぐに貫く好青年として描かれる。その分、ウォンカに素直に共感できる作りだ。ウォンカ役のティモシー・シャラメは、かつてCMで「シザーハンズ」も演じており、ジョニー・デップの後継者として最適。終盤では、大人のウォンカへの変貌も予感させる名演をみせてくれる。
「ハリー・ポッター」のプロデューサーと「パディントン」の監督なので、楽しさと感動、スペクタクルといったエンタメに求められる要素が満遍なく盛り込まれた。特にミュージカル場面は文句なくテンションが上がるし、作品のテンポを加速。めくるめくカラフルな映像や、ウォンカが持ち運ぶコンパクトなチョコレート製造機の面白さ、そしてヒュー・グラントが超ハマリ役の“小さな紳士“ウンパルンパの活躍…と、観ているこちらを夢の世界へと誘う、クリスマスシーズンには最高の一作。(映画ライター・斉藤博昭)
日本映画を観る醍醐味を思いださせてくれる…『市子』(公開中)
市子は恋人の“長谷川くん”からプロポーズされた翌日、自身の私物を詰め込んだボストンバッグをベランダに残し忽然と姿を消す。行方を捜す長谷川は市子の過去をたどりはじめるが、その過程で想像もできなかった彼女の真実とこれまでの壮絶な半生を知ることになる。本作は、劇団チーズtheaterの旗揚げ公演として上演され、熱い支持を受けた舞台「川辺市子のために」を、劇団の主宰者である戸田彬弘が自らのメガホンで映画化した衝撃作。抗えない不遇な境遇のなかに暮らしながら、懸命に生をつかみ取ろうとする女性の姿を追った、胸を鋭くうがつヒューマンドラマだ。
“普通に生きること”そんな当たり前の人生を生まれながらにして剥奪されている市子。戸田監督は、理不尽な社会システムに翻弄され傷つきズタズタとなりながらも、時として生きるために一線を越える川辺市子を、周囲の人間が語る市子像という手法で克明に浮き彫りにしていく。多面的で、哀し気で、人を惹きつけずにはおれない市子を全身全霊で体現したのは杉咲花。泣いているような寂しげな笑顔と、それだけに留まらない意思を感じさせる強いまなざしが印象的だ。そして市子を心から想う長谷川に扮した若葉竜也の温もりある佇まいもいい。日本映画を観る醍醐味を思いださせてくれる珠玉の1本!(ライター・足立美由紀)
本物の個性と瑞々しい演技に圧倒される…『最悪な子どもたち』(公開中)
どこまでが現実で、どこからがフィクションか。ドキュメンタリーのように子どもたちの生き生きした表情の瞬間を切り取っていて、目が離せない。それは是枝裕和作品のようでもある。フランスの荒れた地域で映画が撮影されることになり、地元の子どもたちが公開オーディションで選ばれる。映画で現実から抜けだしたい子ども。彼らを現実から救いたい大人。オーディション映像とフィクション、劇中映画が見事なグラデーションで続き、架空のストーリーとは思えない。
リアリズムを追求したのはキャスティングディレクターや演技コーチとして働き、4000人以上の若者をオーディションする現場で出会ったというリーズ・アコカとロマーヌ・ゲレの新人監督コンビ。演じているのは彼らが実際に撮影した学校や児童養護施設で見つけた演技未経験の子どもたち。プロの俳優にはない本物の個性と瑞々しい演技に圧倒される。(映画ライター・高山亜紀)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。
構成/サンクレイオ翼