ロマコメ『ブルックリンでオペラを』で新たな顔を披露!変幻自在の名優、P・ディンクレイジのほっとけない魅力
アン・ハサウェイが脚本に惚れ込み、出演と共にプロデューサーも兼任する『ブルックリンでオペラを』(公開中)。ニューヨークのブルックリンに住む、一見幸せそうに見える夫婦に訪れた転機を描いたハッピー・ストーリーだ。ハサウェイは潔癖症の精神科医で、社会的成功を収めながらも修道女に憧れるパトリシアをキュートに演じている。
このパトリシアの夫で、5年前からスランプに陥っている現代オペラの作曲家スティーブンに扮したのは、人気TVシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」のティリオン役で知られるピーター・ディンクレイジ。同作でエミー賞助演男優賞を4度受賞し、第69回ゴールデングローブ賞(テレビドラマ部門)で助演男優賞にも輝いた実力派だ。今回はアクション、ミュージカル、ラブコメとジャンルを選ばず存在感を示す、変幻自在の名優であるディンクレイジの出演作について振り返ってみよう。
「ゲーム・オブ・スローンズ」のシニカルな知性派でブレイク
1969年生まれ、アメリカ人俳優のディンクレイジは、『リビング・イン・オブリビオン/悪夢の撮影日誌』(94)でスクリーンデビュー。出世作となったのがHBO製作のテレビドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」だ。ジョージ・R・R・マーティンのファンタジー小説シリーズ「氷と炎の歌」を原作に第8シーズン(2011年~2019年)まで放送された本シリーズで、シニカルなユーモアと高い知性を合わせ持つ主要人物の一人であるティリオン・ラニスターを演じ、演技派俳優としての地位を築いた。
軟骨無形成症のディンクレイジは生まれつき背が低く、身長は132cmほど。若い頃は周囲の視線が気になることもあったそうだが、キャリアを重ねてきたある時、容姿ではなく俳優としての実績によって注目されていることに気づき、そこからは人からちらちらと見られることが平気になったと語っている。
そんな彼がスターダムに駆け上がるまでに厳しい道のりを歩んできたであろうことは想像に難くない。それらの経験が時に役柄にオーバーラップして演技に説得力を増し、キャラクターの人間的深みを引き出してきたのだろう。
個性と卓越した演技力を活かし、着実に役柄の幅を広げる
これまでディンクレイジは個性と卓越した演技力を最大限生かし、役柄の幅を広げてきた。キャリアの前半には『ナルニア国物語/第2章:カスピアン王子の角笛』(08) のドワーフのトランプキンや「ゲーム・オブ・スローンズ」の“小鬼”のあだなを持つティリオンなどを演じているが、多数のフィルモグラフィの中でも『私だけのハッピー・エンディング』(06)での役柄はかなりユニークだ。
この作品は末期がんの主人公マーリーが半年の余命宣告を受けたことから始まるラブ・ヒューマンドラマ。マーリーをケイト・ハドソン、マーリーと恋に落ちる主治医ジュリアンをガエル・ガルシア・ベルナルが演じた。この作品でディンクレイジはマーリーの家に派遣される“エスコートサービス”のヴィニー役。あっけにとられるマーリーに自らを「小さな幸せ」と称する自身満々な姿にニヤリとさせられるが、人の心の殻を破るような明るさと気配り力のある温かい人物をクリエイトし、短い登場時間ながら強い印象を残した。
そしてエル・ファニングと共演した『孤独なふりした世界で』(18)では、人類の大半が謎の現象で亡くなり、誰もいなくなった町が舞台。彼はたった一人で死者を埋葬してその家の片づけをしながら暮らすデルに扮した。多くを語らず「人々が生きていた時の方が孤独だった」とつぶやくデルの見え隠れする鬱屈を、ディンクレイジは抑えた演技で完璧に演じきった。
この他にも「X-MEN」シリーズ第7弾『X-MEN:フューチャー&パスト』(14)での対ミュータントロボット「センチネル」の開発者であるボリバー・トラスク博士や『スリー・ビルボード』(17)での娘の殺害事件の捜査を訴える主人公ミルドレッドに恋心を抱くジェームズ役、そして老人介護ビジネスをモチーフにした『パーフェクト・ケア』でのロシアンマフィアのローマンなど、クセ強めのキャラクターを見事に演じ分けている。