『ウィッシュ』で来日!ディズニー・アニメーション・スタジオCCOが、自身にとってのディズニーを“5つの言葉”で表現
「思い悩んでいた時期に観た『シンデレラ』『リトル・マーメイド』はいまも大切にしています」
コンセプト作りの段階から、本作をミュージカルにしようと考えていたリーは大のミュージカルファン。『アナと雪の女王』も、彼女が参加したことでよりミュージカル色を強めることになった。「とにかく私はミュージカルが大好き。『アナ雪』の企画を持ちかけられた時も『ミュージカル要素を増やせるならイエスです』と答えたくらい。でも当時はミュージカルの脚本の書き方をまったく知らなかったので、まずディズニーのミュージカルチームのレクチャーからスタートしたんです」と笑う。
そんな彼女にディズニーミュージカルのお気に入り作品をたずねると、悩んだ末に「自作を省いて」と前置きしながら『シンデレラ』(50)と『リトル・マーメイド』(89)をあげた。「子どものころにいじめに遭っていた私は『シンデレラ』に勇気づけられ、いつも主題歌『夢はひそかに』を歌っていました。『リトル・マーメイド』はちょうど大学進学のタイミングに公開されました。これから私はどんな人生を歩むんだろうって考えていた時期で、『パート・オブ・ユア・ワールド』がすごく響いてくり返し歌っていたんです。思い悩んでいた時期に観たこの2本はいまも大切にしています」と明かしてくれた。
脚本家、監督としても才能を発揮したリーは、2018年にディズニー・アニメーション・スタジオで初の女性CCOに就任した。その仕事はクリエイティブチームのまとめ役だ。「あるビジョンを形にするため、クリエイティブチームを支えるのが仕事です。例えばなにか問題が発生したら解決の手助けをしたり、観客の立場に立って感じたことをフィードバックすることもあります」という彼女。脚本執筆は出社前に行い、会社ではミーティングの連続だという。「ディズニー・アニメーション・スタジオで進行中の作品の全クリエイティブチームとコラボレーションが必要。大変だけど才能ある人たちと組める最高の仕事です」。
「ディズニーは『希望、可能性、想像力、喜び、それと魔法』」
『アナと雪の女王』では、ディズニー長編アニメーション初の女性監督として注目されたリー。CCOとして特に心がけていることのひとつに多様性をあげる。「あらゆる意味で機会をたくさん作ることを大切にしています。私が就任した時期はディズニープラスのスタートと重なっていたこともあり、多くのフィルムメーカーと接する機会が増えました。新しい世代のクリエイターや女性監督とも積極的に会うようにしています。『アナ雪』で女性監督として扉を開けることができたので、性別に関係なくたくさんの人たちと最高の仕事ができる場を作りたい。ディズニー・アニメーション・スタジオにはそういう場所があると感じてもらえるよう心掛けています」と目を輝かせる。
その一方で、守りたい伝統もたくさんあるという。「受け継いでいきたいのは、ウォルト(・ディズニー)が始めて以来100年にわたって培われてきた制作のプロセスです。例えばストーリールームでのクリエイターたちの密なコラボレーション。誰か1人の声ではなく、お互いに意見を出し合い、時に助け合いながらストーリーを形作っていく。ストーリー以外の部門もそうですが、様々な意見を持ち寄ることでより質の高い映画を目指すプロセスは大事にしています」。
『ウィッシュ』を通し、一番伝えたいことを聞くと、願いの大切さをあげた。「ひとりひとりが心の中に抱えている“願い”が、みなさんを引っ張ってくれる推進力になってくれたら。そんな想いを込めて『ウィッシュ』を作りました。人生にはたくさんの困難がありますが、必ず手を差しのべてくれる人が出てきます。この映画を通し、そのことを感じ取ってもらえたらうれしいですね」と結んだリー。自分にとってディズニーとは「希望、可能性、想像力、喜び、それと魔法」だという彼女が生みだした『ウィッシュ』は、ディズニー創立100年を締めくくると同時に、次の100年への指針となる作品でもあるのだ。
取材・文/神武団四郎