“水”が浮き彫りにする現代日本の問題とは…生田斗真主演の社会派映画『渇水』をいま観るべき理由
幼い姉妹との出会いが岩切の心に変化をもたらしていく
生田が演じた岩切はしがない水道局員で、映画やドラマの主人公にはならないような存在。機械的に同じ作業を繰り返す日々を送るうちに彼の感情はどんどん希薄になり、虚無的に仕事に没頭するあまり、妻子も離れていってしまう。
岩切が水道料金を取り立てに行った先の人々は生活に困っていたり、ルーズな日々を送っていたりする人ばかり。岩切は彼らに暴言を吐かれても、水道料金の徴収や停水執行を仕事と割り切っているため意に介さない。また、太陽や空気と違い、なぜ水は無料ではないのか?と「停水執行」に疑問を抱き、母親不在の家に取り残され、水道代も払えない姉妹のことを心配する同僚の木田に向かって、「腹減ってたらメシ食わしてやんのか?ついでに水道代も肩代わりするか?」と言い放つ。
だが、そんな岩切の心に変化が起きる。幼い姉妹が抱える問題と向き合ううちに、止まっていた岩切の心が再び動きだすところこそ、本作の注目してほしいポイントだ。料金を滞納したから水道を停める。たとえ幼い子どもたちが苦しんだり、最悪死に至るかもしれなくても、仕事だからしかたがない。そうやって割り切って生きてきた岩切の胸に去来する新たな疑問が、そのまま観る者の心を揺り動かす。
社会が抱える問題は決して他人事ではない
貧困に苦しむ家庭や子どもたちは現実の社会にも数多くいるはずなのに、それを放ったまま、見て見ぬふりをする行為は、退屈な日々をただやり過ごしている岩切となんら変わらない。
本作が描く問題や痛みは、コロナ禍に制限される生活を強いられ、少なからず苦しみを味わった私たちの心にもじわじわと侵食してくる。それは決して他人事ではなくなってきており、昨今多発している短絡的な強盗事件はそんな現実社会の綻びの表れかもしれない。問題から目を逸らし、放っておいては、大変なことになる。そこに警鐘を鳴らす本作がいま作られたのも、時代の要請だったのではないか?と、自然に思えてくる。
岩切が最後にどんな行動を取るのか?彼が最後に起こす、白石監督が言うところの“しょぼいテロ”は決してなんの解決にもならない。けれど、渇ききった彼を癒やす美しい大量の水が観る者の心を潤し、思考させる。
そういった意味でも、これは2023年に作られたいま観るべき映画の1本と言えるだろう。今回発売された本作のBlu-ray豪華版には、メイキングやイベント映像集を収録した特典DVDと特製ブックレットが付属しており、作品に携わった人々の思いをさらに詳しく知ることができるはずだ。映画館で観逃した人はもちろん、一度観た人も、Blu-rayやDVDで本作に込められた関係者の思いを感じながら、現代の日本が抱える問題や自身の生活を取り巻く環境と向き合ってみてほしい。
文/イソガイマサト
※高橋正弥の「高」は「はしご高」が、山崎七海の「崎」は「たつさき」が正式表記
映画『渇水』
発売中:渇水 Blu-ray豪華版(特典DVD付) 7,480円(税込)/通常版DVD 4,400円(税込)
発売元・販売元:KADOKAWA
[c]『渇水』製作委員会
https://www.kadokawa.co.jp/product/video2067/