A24ホラー最大ヒット作を編集者らが本音レビュー!『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』の評価は?
現代の若者の“孤独感”を恐怖に結びつける、斬新な着眼点
西川「アメリカでは、今年のサマーシーズンに公開されてアリ・アスターの『ヘレディタリー/継承』を抜いてA24ホラーで最高の興収を記録したとのことです。やっぱりそれだけヒットしたのは、設定のキャッチーさがあったからですよね」
南里「すごくそう思います。あの“手”があれば、誰でもできそうなシチュエーションなんですよね。まあ普通は持ってないですけど(笑)」
西川「“90秒憑依チャレンジ”というのもすごく説明しやすいですね、『それ以上やったらまずい』ってすぐわかるし。双子の友人が霊に取り憑かれる体験を楽しむ10代の少年たちを描いた短編映画を2人に共有したことから生まれたアイデアだと聞きましたが、その着眼点は現代の若者の感性をよく理解していないとできないですよね」
南里「オーストラリアの若者とリアルに接する機会はなかなかありませんけど、孤独を抱えた人がなにかにのめり込んだり取り憑かれていくところは、万国共通の若者心理を捉えていると思えました」
西川「フィリッポウ兄弟は、常にSNSで繋がっていないといけない孤独感を脚本に落とし込んだと言っていました。そういった意味では、若者に限らず現代人にとってすごく共感できる作品なのかもしれませんね」
南里「SNSで繋がっているからといって友だちが多いわけではない。心のなかではそうわかっていても、SNSでの繋がりばかりを求めてしまうことって、大人でもありますよね」
三浦「僕が学生の頃は、みんなで集まって動画を撮影して手軽にシェアする習慣がまだなかった。写真を撮ることがあっても、この映画のようにその場で加工して共有する…というのはデジタルネイティブ世代ならではのこと。最近はすぐシェアできることが当たり前になりすぎていますが、心霊現象を加工する場面というのは、これまであまりホラー映画で見かけなかったようにも思いました。登場するキャラクターに年齢が近しい山下さんは、本作のSNS描写をどう感じました?」
山下「本当に当たり前の描写すぎて、考えたことがなかったですね…」
西川「10年くらい前にも『アンフレンデッド』という、動画がネット上にアップされたことに端を発したホラー映画がありましたが、最近はより身近なものになっていますからね。でも今回の映画は、SNSに拡散された“先”が描かれなかったのも特徴的で、それも当たり前なものだからなのかもしれませんね。それよりも、みんなでワイワイやっているなかで感じる孤独というか、1人でいる方が楽で、周囲といるときに浮いちゃう感覚みたいなものが、現代的な孤独描写のあらわれに思えました」
三浦「周りに乗っかれていないからこそ孤独を感じる。そこに共感が集まってヒットしたというのはすごくわかります。友だちがいない孤独よりも大人数でいる時の孤独の方が刺さるというか、“ここじゃない”という感覚が、いまの時代にマッチしていますね」
西川「危険なことをやってみたらその場だけは輪のなかに入ることができるけど、ずっと続くわけでもない。ちょっとだけ認めてもらえるぐらいが余計に孤独なのかな…。しかもミアの場合は家に帰っても孤独で、行き場がない」
南里「お父さんはきちんと父親としての役割を果たしてくれているんだけど、心の距離は埋めようがないほど開いてしまっている。ミアが感じる、孤独感の塩梅が絶妙ですよね」