人々に公開された遺体、ボブ・ディラン、BLM…現代にもつながる実話を描く『ティル』の知っておきたい5つのキーワード
「BLACK LIVES MATTER」
メイミーの行動力やキング牧師らによって公民権運動は一気に加速することになるが、それでも根深い人種差別は終わることがなく、2012年の「トレイヴォン・マーティン射殺事件」や2020年の「ジョージ・フロイド殺害事件」など、いまなお世界中で痛ましい事件が頻発している。2013年ごろから始まった社会運動「BLACK LIVES MATTER(BLM)」が、「ジョージ・フロイド殺害事件」を契機にアメリカ国内のみならず全世界へと拡がっていったことは記憶に新しいだろう。
その動きのなかに、エメット・ティルの犠牲と母メイミーの存在は大きく影響を与えている。事件から67年が経過し、そしてメイミーの死去から19年が経った2022年3月、人種差別に基づくリンチを連邦法の憎悪犯罪(ヘイトクライム)とする「エメット・ティル反リンチ法」が成立。そしてエメットは、公民権運動の殉教者として、アラバマ州モンゴメリにある公民権運動記念碑にその名が刻まれている。
事件から68年で迎える「初の劇映画化」
キング牧師をはじめ、公民権運動にかかわる人々の物語を描いた映画は数多くあるが、エメット・ティルの物語はこれまで一度も劇映画として描かれたことはなかった。事件発生から数十年の間に何度も映画化の話が持ち上がったとも言われているが、「性別と人種の根深い問題」や「集客に向いていない」といった理由から、何度も頓挫してきたと言われている。
本作の脚本家で製作プロデューサーを務めたキース・ボーシャンが初稿を完成させてから、こうして映画が完成するまでにかかった歳月は29年。プロデューサーを務めた名女優ウーピー・ゴールドバーグはこう語っている。「これまで、この物語を避けようとする強い力があったと思う。しかし近年、“語られるべきことは語るべき”という世の中になった」。いまも目まぐるしく動き続ける社会情勢。まちがいなくその源流となった1人の母親の愛と正義の物語を、この映画を通して多くの人に知ってもらいたい。
文/久保田 和馬