40年以上スタローンの声を吹き替えてきたレジェンド!ささきいさおが「エクスペンダブルズ」最新作アフレコ直後に語ったスタローンとの歩み
「荒れた声を出さなきゃいけないので、よく仲間と飲んで騒ぐんです」
約10年ぶりとなったスタローンの声にもすぐに入っていけたという。「スタローンはこの声とこういう芝居で、というイメージが少し強すぎる感じもしますが、それくらいしないと彼らしくならないんです。やっぱりスタローンの声は低音がすごいので、その雰囲気を出すのが難しい。原音を聞くとただモゴモゴって言ってるように聞こえるところもありますが、同じように吹き替えてもなにを言っているのかわかりません(笑)。日本人であそこまで低い声でしゃべる人はまずいないでしょう」。
そのため、スタローン作品の収録には声を作って臨むのがささき流。「適度に荒れた声を出さなきゃいけないので、よく仲間と飲んでワーッと騒ぐんです。そうすると喉のあたりが解放されて、低い声が出やすくなりますから。ただし飲み過ぎると声が出なくなるので、そのあたりは気をつけます。今回はたまたま数日前にステージがあり、目一杯歌ってきたのでいい状態で低い声がよく出ましたね(笑)」。
「特に好きなのはロッキーとランボーの初期の作品」
ささきが初めてスタローンの吹き替えを担当したのは、『勝利への脱出』(81)のテレビ放映版。それから40年以上にわたってスタローンの声を当ててきた。ただし、スタローンを当てはじめた当初は声を作ることは意識していなかったという。「僕だけでなくDVDなどで違う役者さんもスタローンを当てていましたが、ある時プロデューサーやディレクターにささきさんは声も近いですよね、みたいなことを言われたんです。それから声を作ることを意識しはじめました(笑)」。ささきの考える“スタローンらしさ”とは、声の低さと躍動感にあるという。「昔あるディレクターと飲んだ時、なぜ自分みたいなアーティキュレーション(声の強弱)のある役者を吹き替えに使うの?と聞いたら、『ヤンキーみたいな雰囲気があってアテレコにぴったりだ』と言われたことがありました。そのあたりがスタローンの声を当てる時にも活きたんでしょうね」とふり返る。
ロッキーやランボー、バーニーなど、これまで様々なスタローンのキャラクターを当ててきたなかで、特にお気に入りのキャラクターはなにか聞いてみた。「いっぱいありますが、特に好きなのはロッキーとランボーの初期の作品ですね。特に『ロッキー3』はすごくおもしろかった。やっぱりスタローン自身、世の中に対する反発心みたいなものを持っていて、『ロッキー3』にはそれをすごく感じるんです。最近のスタローン作品は残酷なシーンが多いのですが、それも『お前ら戦場でこういうことやってるんだろ』と提示してるように思えます。それにしても、ちょっとやりすぎじゃない?と思うところもありますけどね(笑)」。
『ロッキー』(76)で一躍人気スターになったスタローン。それから50年近くも彼がトップスターとして支持されてきた理由について、ささきは圧倒的な存在感だと考える。「スタローンはいるだけで違います。やっぱり彼は自ら脚本を書き、監督もしています。自分が作ったものを自ら演じるということは、長所を活かした演出ができるだけでなく自分を客観視できているということ。だからスタローンの映画はおもしろいし、魅力的に映るんだと思います。『エクスペンダブルズ』シリーズもそのひとつで、今回もアクション映画の魅力満載の作り。これでもかというぐらい見せ場が続くので、楽しみにしてほしいですね」。
スタローンらしさを盛り込みながら、新たなスタンスで臨んだ『エクスペンダブルズ ニューブラッド』。スタローン=バーニーの存在感をあらためて感じさせる、シリーズのターニングポイントとなる作品である。
文/神武団四郎