「魔女の宅急便」の作者・角野栄子、来年90歳の抱負は「ピュアなラブストーリーを書いてみたい」チャーミングな人柄で会場を魅了
「魔女の宅急便」の作者として知られる児童文学作家、角野栄子の日常に4年にわたり密着したドキュメンタリー映画『カラフルな魔女~角野栄子の物語が生まれる暮らし~』(1月26日公開)の完成披露上映会が1月16日に神楽座で開催され、角野と宮川麻里奈監督が登壇した。
カラフルなファッションと個性的な眼鏡がトレードマークで、鎌倉の自宅では自分で選んだ「いちご色」の壁や本棚に囲まれて過ごしている角野。本作では、5歳で母を亡くして、戦争を経験、結婚後24歳でブラジルに渡り、34歳で作家デビューするなど波瀾万丈な人生を歩んできた彼女に密着。いまもなお夢いっぱいな物語を生みだす秘訣に迫っている。
元旦に誕生日を迎えて今年で89歳になった角野は、鮮やかなピンクの衣装でステージに登場。「お寒いなかいらしていただいて、ありがとうございます」と笑顔を見せ、「なにしろ主役が89歳なものですから、皆さんあまり期待をなさらないよう」と茶目っ気たっぷりにコメント。会場の笑いを誘いながら、「普通の暮らしをしている私ですので、素材的には撮ってもしょうがないような存在なんだろうと思っていたんですが、宮川さんとカメラマンさんが、150パーセントの私を出してくださった。こんなにきれいに撮ってもらったら、ちょっと詐欺じゃない?というくらいきれいに撮っていただきました(笑)」と宮川監督に感謝して拍手を浴びていた。
本作で映画監督デビューを果たした宮川監督は、「思いもよらず監督をやらせていただくことになって」と切りだし、「世界中の高齢の女性を主人公にしたドキュメンタリー映画を、片っ端から観ました。その結果、『これは大丈夫だ』と確信を持ちました。世界広しと言えど、こんなにすてきな女性はいない。角野さんを映画にするのであれば、どんなふうにつくったとしても絶対にうまくいくだろうと思いました」と角野の魅力をそのまま伝えれば、それだけですばらしい映画ができると清々しく語った。さらに「この仕事を始めて30年。こんなに心からすてきだと思って、取材をできる方に巡り会えたのは、30年頑張ってきたご褒美」と角野に惚れ込んでいる宮川監督は、「この映画は、私から角野さんへのラブレターのつもりで作らせていただいた。角野さんのすてきさをスクリーンから浴びていただきたい」と観客に呼びかけていた。
「角野さんは、いつお目にかかっても愉快」という宮川監督の言葉に納得するような、角野のチャーミングな素顔がたっぷりと垣間見えたこの日の舞台挨拶。劇中でもカラフルな洋服に身を包んで日常を過ごす角野の姿を捉えているが、角野は「『えいや!』と着てしまえば、どんな色でもオーケー。着たいものを着ています」とにっこり。以前はグレーや黒の洋服を着ることが多かったそうで、「50歳ぐらいの時に、赤い洋服があったので着ていったら意外と好評で。そのころは髪の毛が白くなって、老眼で眼鏡もかけなくちゃならなくなって。寂しい時期を迎えた時に、なんかつまらないなと思って。そうすると白い髪の毛って、意外ときれいな色に合うんですね。(カラフルな洋服も)『ああ、いいな』と思って、今日のあり様です」と楽しそうに語ると、観客のなかにも大きくうなずく人が多く見受けられた。
「物語を書く」という、自分の好きなことをやり続けている角野は「私は、“好き”が決まらなかった人なんです。大学を出ても、ブラジルに行ってもなにをしていいかわからなかった」と意外な過去を口にし、「(ブラジルから)帰ってきたら、大学の先生が『本を書け』とおっしゃって。なにせ初めてですから、何回も何回も書き直したんです。そうしたらおもしろいと思っちゃった。一生、書いていこうと思った。それからはコツコツ、コツコツ、毎日書きました」と好きなものとの出会いを回顧。朝から晩まで、土日も必要ないという姿勢で仕事に打ち込んでいるそうで、「好きなことをやっているんだから、『疲れた』と言えない。私も大変な時もあるのよ」と笑いながら、「書きたいものを書いておきたいなと思う。好きなことをやっているんだし、失敗したら戻ればいいと思っている。書き直すことも全然苦にならない。30枚書いても、最初から書き直してもオーケーなんです。書き直すとまた違う発見があるし、それに出会えると思うと楽しい」と書くことが好きで仕方ないと話す。
「来年は90歳。ちょっとこれ、“売り”です」と目尻を下げた角野だが、今後挑戦したみたいことを聞かれると「90になった時に、すごくピュアなラブストーリーを書いてみたい。できればね。中学1年生くらいの初恋の思い出なんて、相手の名前も忘れちゃっているわね(笑)。書けるかな?」と意欲を語り、会場から大きな拍手を浴びた。朗らかな笑顔とトークで会場をたっぷりと魅了し、最後には「お帰りになる時には、スキップして帰ってください。宮川さんにいい映画をつくっていただいて、一生の宝物になると思います」と語っていた。
取材・文/成田おり枝