『夜明けのすべて』三宅唱監督のティーチインをロングレポート!松村北斗&上白石萌音に絶大な信頼感「彼らでなければ、身近に感じられる映画にはならなかった」
役者陣の熱演を称える声も多かったが、「原作も読んでいて、すごく楽しみにしていた。雑誌やインスタライブも拝見していて、役者の方々が(現場で)和気あいあいとお話していたと聞きました。映画からも温かい雰囲気が伝わってきて、こちらも心がほっこりした」と感想を語った観客は、撮影現場での役者とのエピソードについて質問。
「いろいろな話をしていた」と切りだした三宅監督は、「もちろん基本的には役の話。いまから撮るシーンの雰囲気に合う題材。次のシーンがシリアスだった場合に、くだらない話はできない」と目尻を下げつつ、「部屋のなかで、2人がおかしを食べながらおしゃべりをしているシーンなどはなんでも話した方がいいと思っていたので、いろいろな話をした」と述懐。「印象深いのは、山添くんが会社のなかで発作を起こしてしまう場面。非常に辛いシーン。撮影をしていて、監督が泣いたり笑ったりするのはあまりよくないと思っていて、心を動かさないようにして撮っているんですが、そのシーンは非常に辛かった。切羽詰まった顔をしていたのか、平西役の足立智充さんがそっと寄ってきて、無言で肩に手を置いてくれたんです。主演の2人、他の俳優たち、スタッフたちも、(周囲が)いまどういう感じで働いているのかなと、ちゃんと見守っている現場だった」と撮影現場自体が劇中の「栗田科学」のように、思いやりにあふれた空間になっていたと話した。
さらに「主演の2人の自然な演技が印象的。松村さんのクールな感じなど、『職場にこういう人、いるよな』とリアルに感じた」と惚れ惚れとしたという観客が「それは役者さんの役作りによるものなのか。監督の演出によるものなのか」と尋ねると、三宅監督は「99.8パーセントくらいは、彼ら2人の演技によるのではないでしょうか」とにっこり。「2人とも事前に、役についての研究を丁寧にやっていただいた。準備すればするほど、悩みや不安は出てくるはずなので、そこについて最後は一緒に相談をさせてもらう」と松村と上白石の真摯な役への向き合い方に敬意を表し、「あの2人でなければ、このように自然な、身近に感じられるような映画にはならなかったと思います」と力を込めた。
原作も読み込み、細かいシーンについて気になっていることを三宅監督に投げかける人もたくさん見受けられるなど、作品愛に満ちた熱気あふれるティーチインとなったこの日。「全員の質問に答えたい」と三宅監督も前のめりになっていたのが印象的だ。「山添くんの恋人が、ロンドンに行くというシーン。別れを明確に描かなかったのは意図的にそうしたのですか?」という問いかけには、「『ロンドンに行く』と聞いた、(山添くんを演じる)松村くんの顔。言葉こそ少ないですが、その無言の顔で十分、彼の頭のなかにはいろいろなものがあるということが映った。『よし、これで行けるだろう』と思った。言葉ではない演技によって、そういったことも可能になった」とここでも役者への信頼を口にした。