A24の4Kレストアによって復活!革新的コンサート映画『ストップ・メイキング・センス』の衝撃を楽曲や演出と共に振り返る
コンサートフィルムの最高峰と言われる『ストップ・メイキング・センス』が、4Kレストア版で上映中。これはうれしい!トーキング・ヘッズが1983年に行なったツアーの模様を収めた作品で、40周年を記念しての4K化。スクリーンでは度々上映されてはいるが、よりクリアで、なおかつ音もよくなっているとなれば、トーキング・ヘッズのファンならずとも観るべきだろう。いや、ぜひ観てほしいし、体感してほしい。その価値のある作品なのだから。
視覚にこだわり、演劇の要素が宿ったコンサート映画
それについて説明する前に、簡単にトーキング・ヘッズというバンドについて触れておこう。1977年、ニューヨーク・パンクのムーブメントに乗ってデビューを果たした彼らは、1991年に公式に解散を発表するまでの間、ライブ盤を含めて10枚のアルバムを残した。パンクとはいえ、とげとげしい音ではなく、ブラック・ミュージックやアフリカン、ラテンなどのエスニック・サウンドにも目配せして、ポップな楽曲を作り出す。フロントマンのデイヴィッド・バーンはソロアーティストとして、日本でも好評を博した『アメリカン・ユートピア』(20)というコンサート映画を、スパイク・リー監督と共に作ってもいる。メンバーは他、ジェリー・ハリスン、ティナ・ウェイマス、クリス・フランツ。4ピースだが、『ストップ・メイキング・センス』では5人のバックメンバーが加えられている。
『ストップ・メイキング・センス』は、のちに『羊たちの沈黙』(91)でアカデミー賞監督となるジョナサン・デミの出世作としても有名だ。デミは1983年12月、3日間にわたって行なわれたロサンゼルスでのトーキング・ヘッズのステージに7台のカメラを駆使して密着。さらに追加撮影のため、もう一日公演を行なった。この4日間の記録が、『ストップ・メイキング・センス』には凝縮されているのだ。
本作の魅力をひと言でいうと、シアトリカル、すなわち演劇っぼさが宿っていること。もちろん、コンサート映画だからセリフはないし、主体はあくまで音楽。それでも、視覚にもこだわるデイヴィッド・バーンは、このライブで面白い試みをしている。1曲目の「Psycho Killer」では、倉庫のような殺風景なステージ上で、バーンだけがギターを弾きながら歌う。2曲目の「Heaven」ではベースのウェイマスが加わり、3曲目の「Thank You for Sending Me an Angel」ではドラムのフランツが入ってきて、4曲目の「Found a Job」でハリスンが加わり、正規のバンド形態となる。5曲目の「Slippery People」以降はバックのメンバーのうち、3人が加わる。
これだけでも演劇っぽいが、さらにおもしろいのは、演者の背後では黒い服を着たスタッフがセットを組み立てていき、最初は殺風景だったステージが、どんどん整っていくこと。バーンによると、ショーの構築過程をショーとして見せるという意図が、そこに込められているとのこと。またハリスンは、演奏中にスタッフが機材を運び込むのは、日本の伝統芸能から発想を得たと語る。黒い服を着たスタッフは、歌舞伎の黒子のような存在なのだ。