ビヨンセ史上最高のツアーは、ビヨンセによる“ファッションのルネッサンス”。『Renaissance: A Film by Beyonce』の衣装に込められた意味を紐解く|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
ビヨンセ史上最高のツアーは、ビヨンセによる“ファッションのルネッサンス”。『Renaissance: A Film by Beyonce』の衣装に込められた意味を紐解く

コラム

ビヨンセ史上最高のツアーは、ビヨンセによる“ファッションのルネッサンス”。『Renaissance: A Film by Beyonce』の衣装に込められた意味を紐解く

2023年5月のスウェーデン・ストックホルム公演から始まった、音楽界の女王蜂(クイーンB)ことビヨンセのワールドツアー「ルネッサンス」。スケジュールにジャパンがなかったことで、日本の“ビーハイブ“(蜂の巣をもじったファンのあだ名)を悲しませ、ソーシャルメディアで追うことしかできなかった本ツアーだが、ドキュメンタリー映画『Renaissance: A Film by Beyonce』として生まれ変わり、ついに日本でも上映中だ。

【写真を見る】ルイ・ヴィトンにロエベにヴァレンティノ…ビヨンセのきらびやかな衣装をたっぷり紹介!
【写真を見る】ルイ・ヴィトンにロエベにヴァレンティノ…ビヨンセのきらびやかな衣装をたっぷり紹介![c]2023 PARKWOOD ENTERTAINMENT

本作そしてツアーのタイトルにもある“ルネッサンス”は、通算7枚目のアルバム「ルネッサンス」から付けられたものだが、たんにアルバム名を冠した以上の意味をもっている。彼女いわく、それはReborn(再生・復活)で、新しく生まれ変わることであるという。その真意やツアーへの想い、苦悩や生々しい舞台裏は、ビヨンセ自身が監督として本作を製作しているからぜひ劇場で観てもらうとして、もう一つ彼女が復興したものに“ファッション”がある。どうしてこれが、ビヨンセによるファッションのルネッサンスなのか。それを紐解く彼女の哲学は、曲の中にきちんと込められていた。

「Pure/Honey」:煌めくシルバーに隠された想い

7月20日の米ミネソタ州ミネアポリス公演で着用したアレキサンダー・マックイーン。テーマモチーフである馬は、力強く前進するエネルギーの象徴
7月20日の米ミネソタ州ミネアポリス公演で着用したアレキサンダー・マックイーン。テーマモチーフである馬は、力強く前進するエネルギーの象徴[c]2023 PARKWOOD ENTERTAINMENT

ツアー全体の収益だけでも5億ドル(約750億円)を越え、世界的な影響を及ぼしたと言われる本ツアー。そう言われる理由は、たんなるコンサート巡業の枠を超えているからだ。今年の秋、ニューヨークタイムズ紙は、“「ルネッサンス」のおかげでファッションECサイト「Etsy」などの中小企業が、シルバーカラーのアパレルの売り上げを増大させている”と報道した。それもそのはず、アルバム9番目の曲「Virgo‘s Groove」にちなんで、自分の星座である乙女座シーズン(8月23日から9月22日)には、“あなたが思う最もすばらしいシルバーのファッションで一緒にお祝いしたいの。誕生日のお願い!”とビヨンセが投稿したから。自分たちが、ディスコのミラーボールになって、一緒に踊り、喜びを反射させ合いましょう、というわけだ。

 5月17日の英ウェールズの首都カーディフ公演で着用した胸元に輝くティファニー。ヴァレンティノのドレスに、メタリックなクロームネイルをロンググローブの上から合わせた
5月17日の英ウェールズの首都カーディフ公演で着用した胸元に輝くティファニー。ヴァレンティノのドレスに、メタリックなクロームネイルをロンググローブの上から合わせた[c]2023 PARKWOOD ENTERTAINMENT

ファッション業界紙「Women’s Wear Daily(WWD)」も、“ビヨンセがツアーで着用!というニュースが、ブランドに多大な影響を与えている”という記事を紹介。テーマモチーフの馬をあしらったボディスーツなどを複数提供した「アレキサンダー・マックイーン」に770万ドル、コーディネートの主役級ジュエリーを提供した「ティファニー&Co.」に720万ドル、バービーピンクなドレスとシルバーのボールガウンなど、今年の2大トレンド(バービーコアとシルバーアイテム)スタイルを提供した「ヴァレンティノ」に370万ドルの、“メディア経済効果“をもたらしたという。


 7月12日の米ペンシルベニア州フィラデルフィア公演にて。ヴァレンティノのボールガウンにはロングブーツを合わせて、ディスコと乗馬スタイルを融合させた
7月12日の米ペンシルベニア州フィラデルフィア公演にて。ヴァレンティノのボールガウンにはロングブーツを合わせて、ディスコと乗馬スタイルを融合させた[c]2023 PARKWOOD ENTERTAINMENT

アルバムカバーや本作のキービジュアルのとおり、シルバーはすでに「ルネッサンス」のテーマカラーで、ディスコのミラーボールや近未来なロボットを表現する意味もあるのだが、もっと深いメッセージを含んでいる。それが、アルバム15番目の「Pure/Honey」に参加している、伝説的なナレーター、ケビン・JZ・プロディジーの起用からわかる。言葉を紡ぐアーティストであるケビンとビヨンセは、ルネッサンスにおいて、ボールルーム・カルチャーをオマージュしているのだ。「ボールルーム」とは、LGBTコミュニティの中であった人種的な差別に直面していたブラックとラティーノたちが、1980年代にニューヨークで始めたアンダーグラウンド・ムーブメントを指す。

その後、それぞれの主催グループは「ハウス(家)」と呼ばれ、各ハウスがクラブで行うヴォーギングなどのダンスやパフォーマンスが話題になるにつれて、全米に広まっていった。このコミュニティが、LGBTQIA+と包括的になるずっと前から、トランスジェンダーやドラァグクイーンたちが自己を自由に表現できた場所。ボールルームが、人種やジェンダー、性的趣向にかかわらず、迫害を心配せずに安心できるところ、いつでも帰ることのできるところを象徴しているから、ビヨンセはルネッサンスをそういう居場所にしたかった。だから、シルバーファッションをリクエストしたのだ。

 クリスタル刺繍のタンクトップ、デニムラインストーンのショートパンツ、テンガロンハットにニーハイブーツというオールシルバーで、最高に舞台映えするルックは、「ミュウミュウ」のもの
クリスタル刺繍のタンクトップ、デニムラインストーンのショートパンツ、テンガロンハットにニーハイブーツというオールシルバーで、最高に舞台映えするルックは、「ミュウミュウ」のもの写真はBeyoncé(@beyonce) 公式Instagramのスクリーンショット
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