アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第27回 リミテッド
MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第27回は都筑に未曽有の危機が訪れる。
ピンキー☆キャッチ 第27回 リミテッド
「鈴香です」
「七海です」
「理乃です」
「私達三人合わせて『ピンキー☆キャッチ』です!」
十七歳の私達、実は誰も知らない、知られちゃいけないヒミツがあるの。それはね、、表向きは歌って踊れるアイドルグループ。
でも悪い奴らが現れたら、正義を守るアイドル戦隊『スター☆ピンキー』に大変身!
この星を征服しようと現れる、悪い宇宙人をみ〜んなやっつけちゃうんだから!
マネージャーの都築さんは私達の頼れる長官!
今日も地球の平和を守る為、ピンキー☆クラッシュ!
都築は飛び起きた。まだ日も昇らぬ早朝4時13分。いつものアラームとは違う、職場で配布されている携帯の緊急一斉送信の呼び出し音だった。少し低めのアラートで、滅多な事では耳にする機会もないため、背筋の悪寒を伴って瞬時に目覚めた。
赤文字で『緊急・概要確認されたし』の表示を見るも、メール欄は開かずに夜勤で入っているはずの遠山の携帯に電話をかけた。概要メールよりもこちらの方が素早く詳細が知れる。
「もしもし都築さん、概要ご覧になりましたか?」
「いやまだだ、説明頼む」
「はい。防衛省周辺の6箇所で地面の隆起が確認されました。それぞれ縦3.5メートル、横に2メートルほどの隆起で、地層がアスファルトごと盛り上がっている状態です」
「人身被害は?」
「車両事故での怪我人が3名出ていますが、いずれも軽傷です。現在周辺道路を封鎖。混乱を避けるために水道管の不具合として地域住民の避難を進めています」
「マスコミは来てるか?」
「初期段階で数社認められましたが、今は規制線を広範囲に敷いたので遠巻きにといった状況です。明るくなったらヘリで上空からの撮影等はあるかと」
「分かった。隆起した際の状況は掴めてるのか?」
「昨晩までは何の異常も無かったようですので、深夜から今朝方にかけての数時間のうちにだと思われます。解析班が周辺の防犯カメラで調査中です」
「分かった。これから現場に向かう、ありがとう」
遠山の背後のざわつきから、防衛省内での混乱ぶりが窺えた。防衛大臣である中込へ提言をしたのが二日前。怪人対策としての防衛強化を図る間もなくの奇襲であった。いや、現段階で奴らの奇襲と決めつけることは出来ないが、ここ近々での流れからの防衛省に狙いを定めたかのような異変だ。関連は大有りと見るのが自然だろう。
都築はタクシーを降り、パスを提示して規制線をくぐるも、現場にはまだ近付けなかった。放射能検査と地層調査を終えるまでは待機になると告げられた。省内に入ると、吉崎と遠山をはじめ、職員達がモニターに見入っていた。
「おう都築。次の展開、予想よりも早かったな」
「はい、何か動きは?」
「今のところまだありません。第一報では放射能による汚染の恐れは無さそうとの事です。解析の調査がもうしばらく続くかと」
「隆起した場所は?」
「南北に一箇所ずつ。東西に等間隔で二箇所ずつ。この防衛省を囲むようにバランスよく隆起してる」
「省内や周辺の電波障害は?」
「特に確認されていません」
「・・・・・直接的な実害無し・・狙いは何なんだ・・・」
空が白み、規制線外にはマスコミや野次馬が増えた。報道のヘリも上空に飛びはじめた。水道管の不具合との報は流しているが、こんな怪現象が、しかも防衛省を取り囲むように起きたのでは恰好の興味の的になるのは防げまい。朝の報道番組では『水道管の不具合でこうした現象は起こり得ない』と専門家が息巻いて説明をしていた。
夜勤シフトだったピンキーの別動隊も、更なる緊急時に備え待機している。本体も呼び寄せ、対策を練ろうかと考えていた時、都築の携帯が鳴った。理乃からであった。
「もしもし都築さん、今どこ?」
「どこって、省内だ」
「ええ?何でぇ?」
「何でって、当たり前だろう」
「遅刻やで?」
「遅刻?何がだ?」
「やっぱり忘れとるわ。今日『リミテッド』の収録よ」
「え?」
「え?やあらへんやん。都築さん待ちなんやって」
リミテッドは2、30代に人気のバラエティ番組だ。都築は混乱する頭に記憶が戻ると顔が青ざめた。よりによって今日はタレントと、そのマネージャーも出演して互いに暴露合戦を行う収録だったのだ。
「他の事務所のマネージャーさんも、もうみんな揃ってるよ」
「すまない・・いや、ニュース見たろう?緊急の連絡も行ってるはずだ」
「え?ああ、でもあれ水道管が壊れたんちゃうの?」
「馬鹿!それは外に向けた言い訳だ!お前らなら分かるだろう、あれはどう考えたって連中の・・」
「あ、都築さん!都築さん!」
「・・・どうした?」
「ごめん、これ今スピーカーフォンにしてて・・・プロデューサーの戸松さんもここにおって・・」
「あ・・・・」
「もしもし戸松です〜、お疲れ様です。都築さん大丈夫ですか?あの今朝のニュースの、何か巻き込まれたんですか?」
人の良さそうなボテっとした体型の戸松の姿が目に浮かんだ。
「ああ・・・・そうなんですよ、あの近場に住んでて規制線が張られまして・・バタバタしてました、申し訳ありません」
「そうでしたか、でもご無事で良かったです。ええと・・こちらいらっしゃれるのは何時くらいになりそうでしょうか?」
本来であれば関東テレビジョンに9時入りのスケジュールであった。室内の電波時計は9時35分を指している。なんて事だ。普段であれば緊急時には代理の職員をマネージャーとして行かせればいいし、最悪メンバーのみで収録させても構わない。よりによってこんな緊急事態が起きた日にマネージャー参加型の企画とは。
一瞬、別動隊の鏑木辺りをマネージャーとして向かわせればいいと考えが過ったが、ハッとして頭を振った。今回はメンバーから寄せられた都築のおっちょこちょいエピソードを役者が演じ、再現VTRとして作ってあるのだ。都築自身のリアクションありきの企画だ、本人がその場にいなければ意味がない。
更に今回は他タレントとマネージャーも多数参加し、いつもよりも大袈裟な雛壇を組んでの2時間SPだった。オンエアで2時間SPということは収録自体はその倍ほどはかかる。自分やピンキーには長尺の出じろが予定されており、再現Vに起こしてくれているのも数組のみだ。ここが急遽出られないとなれば多大な迷惑がかかってしまうだろう。
視聴者として見ていた時には気にもしていなかったが、一つの番組には想像以上の人数が動いており、そして膨大な金がかかっている。バラエティのおちゃらけた雰囲気に紛れてはいるが、技術班や制作班、美術関係者も数週間・数ヶ月前から責任を持って動いている。もちろん他の演者や事務所サイドも同じだ。何より都築が防衛省職員であることは守らなくてはならない秘密であり、今回の事件に関連している事を察知される訳にはいかない。
「都築さん?どうされました?」
「・・・・あ、いいえ・・・・その・・」
都築はギュッとつむっていた目をカッと開くと、意を決して話出した。
「戸松さん、30分後には・・・・行きます!」
(つづく)
文/平子祐希
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。