「rurumu:(ルルムウ)」デザイナーの東佳苗が“衣装”から読み解く『哀れなるものたち』。ガーリーな雰囲気のなかで描かれる、痛烈な社会風刺
「“未成熟で野生的な衝動のままに人間真理を訴えかけてくる作品”が好き」
高校生のころから、たくさんの映画を観てインスピレーションを受けてきたという東。映画の衣裳や美術の仕事のほかにも、自身で短編映画の監督、脚本に挑戦するなど「映画」という世界に深く惹かれていることが、その表現活動から感じられる。どのような作品が、自身の活動や美意識の根底にあるのか。東の生涯ベスト映画をうかがった。
「『小さな悪の華』や『ひなぎく』や『ヴァージン・スーサイズ』など、無自覚で無防備に性や死を振りかざす恐るべき少女たちを映した作品に惹かれてきましたが、理由ははっきりわかっていませんでした。ですが『哀れなるものたち』を観て、私は“未成熟で野生的な衝動のままに人間真理を訴えかけてくる作品”が好きなんだなと思いました。魂のまま進む、という話をしましたけど、まさにそうで。他者がコントロールできる次元にいないような、危なっかしくて恐ろしい人。そういう人だからこそ、すべてを見透かしたように本質を突いてくる感じがあるじゃないですか。言ってしまえば、一番未熟なはずなのに一種の神視点のような強さがある。少女=老婆と言われるように、年齢を超越したような存在になっていくと、常識も地位も名誉もすべて取っ払われて、動物的な感性で生きている人が多い気がします。まさにベラは、破天荒に突き進んでいき、周りに惑わされることなく自分の意志であらゆる選択をしますよね。ベラというヒロイン像も本作も、生涯のベスト映画に入りました。
可愛らしいビジュアルの作品が内包する本質は社会派なことも多いですよね。『ひなぎく』は特に、歴史背景を知らないとわからないような政治批判のメタファーが隠されていて、ガーリーにコラージュされた宣戦布告、のような力強い映像作品です。間口は広くとっつきやすくパッケージされた中に価値観のゲームチェンジを促すような革新さがある作品が好きなんだと思います」。
『哀れなるものたち』は東にどのようなインスピレーションを与えたのだろうか。複雑に絡み合うテーマやモチーフを思い出しながら、じっくり答えてくれた。「たとえばセックスシーンもよく出てきますが、これはメタファーであって、まるでスポーツのようにカラッと描かれているなと思いました。大人として自活していくにあたり“欲”は大事だし、女性が能動的に性の主導権を握ることは恥ずべきことではないと、ベラに教えられているようでした。おそらく私は逆サイドにいた人間で、大人になったいまでも、少女と老婆の間にある"女性性"の部分がなぜか自分とは遠い気がしていました。ですが、いい意味で固定観念が崩れて、等身大の自分自身を受け入れる気づきのきっかけをもらえたことがすごく大きかったです。成熟を自覚して恐れずに魂のステージを変えていける人こそが、本当の自分の物語の次のページを捲り、治外法権の理想郷を形成していけるのだと気付かされました」。
取材・文/羽佐田瑶子
縷縷夢兎/rurumu:デザイナー。 1989年福岡県生まれ。文化服装学院ニットデザイン科卒業。衣装デザイナー、アートディレクション、 空間演出、スタイリスト、映画監督、オーディショ ン審査員、キャスティングなど、活動は多岐に渡る。 2019S/Sよりrurumu:を本格始動。監督作に『Heavy Shabby Girl』(15)、『my doll filter』『THE END OF ANTHEM』(17)、『21世紀 の女の子』(19) などがある。