日仏合作『化け猫あんずちゃん』、“ロトスコープ”で森山未來の起用は「原作にはない猫的な動きを相談できるかな」
いましろたかしのカルト的人気漫画をアニメーション映画化し、俳優の森山未來が化け猫の声と動きを担当した『化け猫あんずちゃん』(7月公開)。東京ビッグサイトで開催されたAnimeJapan 2024で、3月23日に開かれた「クリエイションステージ」にて、本作でW監督を務めた久野遥子、山下敦弘と、近藤慶一プロデューサーが登壇し、トークセッションを実施した。
アニメ業界で活躍するクリエイターが登壇する「クリエイションステージ」は、今年のAnimeJapanより新設されたもの。久野監督たちは、有名俳優を起用した“ロトスコープ”のアニメーション技術や日仏合作について語りあった。
「化け猫あんずちゃん」の映画化について、近藤プロデューサーは「10年ほど前に山下監督の『苦役列車』の助監督をしていて、事務所に『化け猫あんずちゃん』のコミックスが置いてあり、いままでに読んだことのない漫画だなと思いました。翌日、なぜ事務所に置いてあったのかを山下監督に聞いたら『誰かの目に止まればいいなと思って僕が置いたんだよ』と言っていて、それ以来、映像化できたらおもしろいなと漠然に思っていました」と企画の経緯について解説。
もともと原作漫画のファンだという久野監督は「世の中の塩辛い部分を描いている一方で、弱さそのものは認めて愛おしく思っているような漫画で、そういった塩辛さと優しさが両方ある漫画は珍しいなと思いました。コミックボンボンで連載されていたので、子ども向けになっている一方で、厳しい部分もしっかり描かれていて、不思議なバランスがすごく魅力的な漫画だと思っています」と、その魅力を語る。
山下監督は「いましろたかしさんの大ファンで『ハードコア』も実写化しています。どの漫画も好きなのですが、『化け猫あんずちゃん』に関しては子ども向けに描いたというのもあるかもしれないですが、一番映像化しやすい作品だなと思い、ずっと映画化したいなと思っていました」と、かねてより映像化を狙っていたと明かした。
ロトスコープという、実写の映像をもとにアニメ化する手法で作られた『化け猫あんずちゃん』。あんずちゃん役に森山未來を起用した実写パートの撮影にあたって山下監督は「お芝居をアニメっぽくしようとかは考えていなかったので、通常の実写映画の撮影と基本は変わりませんでした。森山くんは俳優としてもすばらしいのですが、ダンサーとしてもすばらしく、身体能力がすごい方なので、原作にはない猫的な動きを森山くんだったらいろいろ相談できるかなと思っていました」とコメント。
久野監督は「実写を単純に絵にするだけだと、リアルになりすぎてしまい、大きな表情でもなんとなく小さく感じる表情になってしまったりします。なので、アニメにした時に役者さんの熱量を下げないように、実写と絵のテンションを同じようにすることを一番大事にしました。森山さんは身体能力がすごいので、猫みたいな動き、足で耳をかく動きとかも実際にやってくださいました」と、ともに森山を大絶賛。森山の確かな演技力と身体能力がいかにあんずちゃんに活かされているのか、期待が高まる。
日仏合作となった本作について「フランスのMIYUプロダクションから久野さんへ作品作りのオファーがあり、久野さんが『化け猫あんずちゃん』を作りたいと逆プレゼンをしてくれました。そして改めて僕が企画書をお送りして、この映画を一緒に作ろうとなりました。今回は、色彩周りや背景をフランスの方で作業してもらいました。出資だけではなく、せっかく一緒に作品を作るのならちゃんと大事な部分を担ってもらおうとなりました」と近藤プロデューサーが経緯と役割分担について語った。
久野監督も「MIYUプロダクションにはカラーボードを作っていただきました。美術監督の方が、ポスト印象派の画家ボナールの絵がイメージにあると言っていて、絵画的なバランスや、柔らかい感じ、印象派的な光の感じがとてもあんずちゃんの世界にあっていたと思います。紫と黄色が画面のなかで大事にされているようで、それが私としてはフランスっぽい色味に感じられて、日本の風景でありながら、ヨーロッパっぽくなっています。日本には日本の美術の良さがあると思いますが、これはフランスのスタッフにしか出せない世界で、見るたびに楽しくてしょうがなかったです」と、フランスらしい独特の色彩で描かれた本作の魅力を解説した。
トークセッションの最後には、近藤プロデューサーが「久野節、山下節が炸裂している映画ということが伝わったかなと思います。7月の公開を楽しみにしていただければと思います」とコメント。山下監督は「アニメの監督をするのは初めてで、参加させてもらえてとても良かったと思っているのと、すごい作品ができちゃったなと思っています。1本の映画としての強度がすごく強い作品だと感じているので、大きいスクリーンで観ていただきたいです」と話し、久野監督は「普通にアニメを作っていると、どうしても1人の頭のなかで考えただけのことに頼らないといけないことがあるのですが、今回は役者さんの息使いがあって、山下さんがそれを撮影し、それが絵になって、そういう多層的というかいろんな色が混ざっていて、本当に見たことが作品になっていると思います」と、それぞれ本作の魅力をアピールした。
文/山崎伸子