原田眞人と森達也が『オッペンハイマー』の凄さを熱弁！「いまの世界にとっても大事な映画」

第96回アカデミー賞で作品賞や監督賞など最多7部門に輝いたクリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』(公開中)。その公開記念トークイベントが4月6日、丸の内ピカデリーDolby Cinemaにて開催。『日本のいちばん長い日』(15)や『検察側の罪人』(18)、『BAD LANDS　バッド・ランズ』(23)などで知られる原田眞人監督と、『福田村事件』(23)の森達也監督が登壇した。

日本でも大ヒットスタートを飾り、SNSで絶賛の声が相次いでいる『オッペンハイマー』[c]Universal Pictures. All Rights Reserved.

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現代日本を代表する社会派映画の名手2人は大きな拍手に迎えられながら登壇。「すばらしい映画を語る機会をありがとうございます」と挨拶した原田は「『市民ケーン』や『アラビアのロレンス』、『アビエイター』など、歴史に名を刻んだ人物の栄光と没落をスペクタクルに描いた作品の系譜にある『オッペンハイマー』は、そのなかでも最高峰の1本だと思います。ずっと興奮しながら観ていました」とさっそく熱烈な賛辞を送る。

一方、森は「50年や60年の近過去を描くのは大変な作業だったと思います」と、自身も100年前に実際に起きた事件を『福田村事件』として映画化した立場からコメント。「広島・長崎が描かれていないという意見も聞いていましたが、しっかりと描かれていると思います。間接話法、直接話法という表現方法があり、必ずしも直接描けばよいというわけでもない。ものすごく強烈な反戦・反核映画になっています」と力説し、「いまの世界にとっても大事な映画だと思います」と語った。

その森の言葉を受けて原田は、自身が『日本のいちばん長い日』を手掛けた後に広島の方から「原爆の広島を描いてくれないんですか？」と言われたエピソードを振り返り、「コロナ禍で時間が取れた時に、広島の原爆投下を中心とした1か月を描いた脚本を描きました。『オッペンハイマー』で中途半端に踏み込んでなければいいなと思っていましたが、広島に対する罪の意識がしっかりと描かれていた。被害を間接的に描く場面ではのめり込んで描いており、アメリカだけの話にしている。その論理の見事さに感動しました」と再び絶賛。

さらに「妻のキティに比べたら、オッペンハイマーは弱くてしょうがない男。そんな男があのようなことをやってしまい苦悩する。それが映画的に魅力ある素材になっていると思います」と森が語ると、原田も「あの繊細なキリアンで大丈夫なのか？とすごく不安になりましたが、最初から音と映像でオッペンハイマー自身の心の奥深くに入っていくし、表情で全部見せてくれる。そのなかから弱さが出てきたり、ひとりの人間としてのフルスケールを表現した演技が本当にすばらしい」と、オスカーに輝いたキリアン・マーフィーの演技にも太鼓判をおした。

最後に、いままさに世界各地で戦争が起き、また再び核兵器が使われるかもしれない時代であることを踏まえ、2人はこれから『オッペンハイマー』を観る人々へメッセージを送る。森は「プーチンが核兵器の使用をほのめかした時、核抑止論は崩壊したと思っています。この映画で広島・長崎を描いていないということよりも、むしろそちらの方に声をあげるべきなのではないかと、『オッペンハイマー』を観て改めてそう思いました」。

そして原田も「僕は日本の映画人としてこの作品に続く映画で広島を描きたい、核の惨状を描きたいと思いました。最新のVFX技術で再現できるからです。『オッペンハイマー』が拓いてくれた道を、世界の映画人がここから影響を受けた映画を作っていくべきだと思います」と、映画監督としての強い使命感をあらわにしていた。

文/久保田和馬