クローネンバーグ父子の作家性は似てくるのか!?それぞれの最新作『インフィニティ・プール』&『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』で検証してみた

コラム

クローネンバーグ父子の作家性は似てくるのか!?それぞれの最新作『インフィニティ・プール』&『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』で検証してみた

最新作『インフィニティ・プール』が公開中のカナダの鬼才、ブランドン・クローネンバーグ。父親はご存知、敬意を込めて“変態”と称されるデヴィッド・クローネンバーグだ。偉大な父を持った宿命か、“クローネンバーグの息子”という冠詞を必ずと言っていいほど付けてられてきたブランドンだが、『アンチヴァイラル』(12)、『ポゼッサー』(20)、そして本作と作品を重ねるごとに、彼ならではの世界観をアップデートさせ、着実にファンを獲得し続けている。

クローンを生成すれば刑罰の身代わりにすることができる『インフィニティ・プール』
クローンを生成すれば刑罰の身代わりにすることができる『インフィニティ・プール』[c] 2022 Infinity (FFP) Movie Canada Inc., Infinity Squared KFT, Cetiri Film d.o.o. All Rights Reserved.

とはいえ、両者の作品を観ているとその節々に共通点を見いだしては、「やっぱり親子だな~」と感慨深くなってしまうもの。奇しくも、『インフィニティ・プール』公開と同じタイミングで、デヴィッドが手掛けた『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』(22)のBlu-ray&DVDもリリースされたばかり。そこで双方の作品を見比べながら、通じ合う部分、微妙にベクトルの異なるところなどをピックアップし、それぞれのおもしろさを確認していきたい。

【写真を見る】環境破壊が進んだ結果、人類が痛みを失うなどの進化を遂げた近未来を描く『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』
【写真を見る】環境破壊が進んだ結果、人類が痛みを失うなどの進化を遂げた近未来を描く『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』[c] 2022 SPF (CRIMES) PRODUCTIONS INC. AND ARGONAUTS CRIMES PRODUCTIONS S.A. [c] Serendipity Point Films 2021

テクノロジーや医療、人間の深層心理をベースにした世界観

セレブが感染したウイルスを採取し売買する近未来サスペンス『アンチヴァイラル』、他人の意識に侵入して操作する工作員の危険なミッションを描く『ポゼッサー』と、特殊な設定が好奇心をそそるブランドン作品。『インフィニティ・プール』では、殺人など重罪を犯したとしても、多額の資金を支払うことで自身のクローンを生成し、刑罰を代わりに受けてもらうことができる高級リゾート地が舞台になっている。このリゾートはどこかの孤島にあり、観光客は敷地外に出ることを禁止されている。一歩外に出るとそこの住人は貧しい暮らしをしていて、犯罪率は高く、警察は強権的だ。セレブたちがバカンスを楽しんでいる様子との対比が印象的に目に入ってくる。

ガビはジェームズを立ち入り禁止になっているリゾートの敷地外に連れ出す(『インフィニティ・プール』)
ガビはジェームズを立ち入り禁止になっているリゾートの敷地外に連れ出す(『インフィニティ・プール』)[c] 2022 Infinity (FFP) Movie Canada Inc., Infinity Squared KFT, Cetiri Film d.o.o. All Rights Reserved.

一方の『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』は、地球の環境破壊が進んだ結果、人類は痛みを失い、プラスチックを食べるなど様々な進化を遂げた近未来が舞台。冒頭から、ある母親がプラスチックを食べる息子に嫌悪感を示して殺害するほか、進化した人類を監視する極秘の政府機関も登場するなど、人類の進化に社会がまだ適応できていないことが描かれていた。

プラスチックを食べる少年(『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』)
プラスチックを食べる少年(『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』)[c] 2022 SPF (CRIMES) PRODUCTIONS INC. AND ARGONAUTS CRIMES PRODUCTIONS S.A. [c] Serendipity Point Films 2021

両作ともテクノロジーや医療、人間の深層心理などがベースになっていて、劇中の人々や世界が抱える問題も示唆。どちらかというと、『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』が引いた視点で物語を見守っているのに対し、『インフィニティ・プール』は痛烈でシニカル。刑法から解き放たれたことで人々のモラルが剥ぎ取られ、善意の仮面に隠していた傲慢で横暴、暴力的な部分が暴かれていく。

仮面の下に隠された暴力的な人間の性質が露わになっていく(『インフィニティ・プール』)
仮面の下に隠された暴力的な人間の性質が露わになっていく(『インフィニティ・プール』)[c] 2022 Infinity (FFP) Movie Canada Inc., Infinity Squared KFT, Cetiri Film d.o.o. All Rights Reserved.

また、『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』には人間の体を切り開く“サーク解剖モジュール”や食事など生活面のサポートをしてくれる“ライフ・フォーム・ウェア”といったガジェットが登場。昆虫やサナギのような生物的なデザインで、クリエイターの嗜好や愛嬌も感じられる。それとは逆に『インフィニティ・プール』に映る機械や道具はとにかく無機質。意味ありげにクローズアップされる工場のパイプラインに始まり、流れ作業のように行われるクローンの生成シーンには感情がこもっておらず、登場人物だけでなく観ている側の不安も煽られてしまう。

ソールのパートナー、カプリースは公開手術のパフォーマンスで臓器を取り出す(『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』)
ソールのパートナー、カプリースは公開手術のパフォーマンスで臓器を取り出す(『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』)[c] 2022 SPF (CRIMES) PRODUCTIONS INC. AND ARGONAUTS CRIMES PRODUCTIONS S.A. [c] Serendipity Point Films 2021


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