ラストシーンの演出意図とは?セリーヌ・ソン監督&グレタ・リーが『パスト ライブス/再会』撮影当時を振り返る「一生に一度の経験」
「まだ恋を知らない時にこの映画を観るのと、たくさんの恋を経験したのちに観るのとで、感じ方は変わるでしょう」(ソン監督)
『パスト ライブス/再会』は、サンダンス映画祭やベルリン映画祭で上映されたのち、北米で劇場公開された。ソン監督やリーのもとには、様々な観客から感想が寄せられたという。その多くが、リーが言うような『この感情を知っている』というもの。
「とても若い女性から、『私はまだ恋に落ちたことはないけれど、あなたの映画を観て、これからの人生に希望が湧いてわくわくし、いつか恋をしてみたいと思いました』と言われました。このような反応はまったく想定していませんでした」とリーが言い、「まだ恋を知らない16歳の時にこの映画を観るのと、60歳になってたくさんの恋を経験したのちに観るのと、感じ方は変わるでしょうし、変わるべきだと思います」とソン監督は語る。
初恋の相手との再会は、過去を懐かしむものではなく、未来へ進むためのイニシエーションだとソン監督は考えているようだ。
「私たちは、いつも子ども時代を手放すよう求められているような気がします。だって、大人たちのドラマはいつも、大人たちがお互いに対して子どものように振る舞うことから始まるものだから。ノラとヘソンは、お互いの目には12歳のように映っているけれど、実際は40歳近いという矛盾があります。この矛盾がこの物語の核心でした。太平洋を横断する移民の話でなくても、誰にでも思い当たる節があるでしょう。例えば、私は35歳だけど、母親といると急にティーンエイジャーに戻ったような気分になることがあります。つまり、それは生きること、人間であることの自然な感覚の一部なんだと思います」
「ノラの足取りが、過去へは向かっていないと表すタイムラインのように撮りました」(ソン監督)
夜明け前、空港へ向かうヘソンを見送るノラ。そして無言でノラを受け止めるアーサー。この数分間のシーンで三者三様の複雑な思いが交差し、その想いが観客にまで伝わる名シーンだ。このラストに関し、ソン監督は演出意図についてこう解説している。
「あのシーンは、彼女の足取りは過去へは向かっていないと表すタイムラインのように撮りました。車はノラの過去に向かいますが、彼女は振り返り、自分の現在と未来がある場所に向かって歩き出します。そして、彼もこの街を去ることによって、なにかを終わらせることができるのです。左から右へ、右から現在へ、そして未来へと。だから、彼が自分で去っていくシーンで終わる必要があったのです。車は走り去るけれど、私たちはここにとどまる。彼は、ニューヨークを訪れた1人の観光客に戻り、去っていきます。私たちは彼らのストーリーの一部を垣間見たに過ぎないのです」
取材・文/平井伊都子