『陰陽師0』佐藤嗣麻子監督と夢枕獏が語り合う、お互いの作品の魅力「獏さんの文章は、改行がカット割りに近い感覚」
「僕らはもう萩尾望都さんの単なるファンですから」(夢枕)
――なかなか初心者には難しく、いちから勉強し直します…。ただ、説明いただいく間にも抜群のコンビネーションを感じました。お2人は長年のご友人とのことでしたが、改めて本作でキャンペーンや舞台挨拶を回っていかがでしたか?
佐藤「獏さんとお話するの、楽しい!」
夢枕「遠慮がないからね(笑)。僕も佐藤監督も、あんまり気を遣ってないよね」
佐藤「全然、気を遣ってないね(笑)」
夢枕「どんなにハンパでも原作者の偉い先生に気を遣って、立てなきゃいけないところなのに、立てないからね(笑)」
――長年積み重ねてきた信頼関係を感じます。お2人に共通点のようなものはあるのでしょうか。
佐藤・夢枕「えええー!」
佐藤「そんな共通の話をしたことないよね?あ、でも萩尾望都さん!」
夢枕「そうですね。僕らはもう萩尾さんの単なるファンですから」
佐藤「萩尾さんはもう神様ですね。うちの主人(山崎貴監督)が、(スティーヴン・)スピルバーグに会った時に、『神様に会った』って言っていたけど、私はもう萩尾さんにずいぶん昔に会っているしなって思いました(笑)」
――普段どういうお話をされているのでしょうか?
佐藤「獏さんは釣りの話と格闘技。私は乗馬の話をしています」
夢枕「最近馬の話ばっかりだったね。あとで教えてくれたんですが、この映画のために馬に乗っていたんですよ」
――話のなかで影響を受けたことはありますか?
佐藤「釣りはやらないことにした(笑)」
夢枕「僕は乗馬をやらないことにした(笑)」
「佐藤監督はこだわりが強くて、そのこだわりに対して真っ直ぐ」(夢枕)
――お2人の関係性がとても伝わりました(笑)。佐藤監督はもともと夢枕先生のファンだったとのことですが、夢枕先生の作品の魅力はどのようなところにあるのでしょうか?
夢枕「褒めろよ(笑)」
佐藤「いつもなんかせつないというか、泣けるところ。あと鬼とかまで許しちゃったりする物語がかっこいい。文章がすてきで、読みやすいし美しい!」
夢枕「もう十分だよ(笑)」
佐藤「文章にリズム感もあって、そういう意味では映像的なのだと思います。改行することがカット割りに近い感覚です。格闘シーンとかも、ここはカメラが寄りでここは引きだなとか、読みながらわかる感じですね」
夢枕「カット割りまではいかないんだけど、場合によっては映像をきちんと描写をする方ですね。僕の場合は、文章じゃないとちょっとできないような『文章映像描写』をやれるところまで行くと快感ですね。実際には映像でもできるのかもしれないですが。
具体的には坂口安吾の『桜の森の満開の下』のラスト1行が、『あとに花びらと、冷めたい虚空がはりつめているばかりでした』と終わるんです。その『冷めたい虚空がはりつめている』というのは、その“文章で行く”場所なんです。文章が作っている描写で、文章として刺さってくる場所で、そこに行くための“風景描写”みたいな感じもあります。そこにやってもやっても行けない時があって。たどり着くまでしつこくやることもあります」
佐藤「今作の主題歌がBUMP OF CHICKENの『邂逅』なんですが、藤原(基央)くんの歌詞もなんか画にできないところがいまのと似た感じがしますね」
夢枕「小説の話ではありますが、やっぱりそういう(描写の)勝負どころが何か所かないと、書くほうはつまんないですね」
――先ほどの質問とは逆に、夢枕先生が思う佐藤監督の作品の魅力を教えてください。
佐藤「褒めてね(笑)」
夢枕「こだわりが強くて、そのこだわりに対して真っ直ぐだよね。そういうのが映像とか普段の姿にも出ていて」
佐藤「(笑)」
夢枕「今作ではそういったこだわりを、どれかにとらわれてないバランスがすごいよね。なにかにとらわれちゃうと、お話のバランスが悪くなることがあるじゃないですか。自分の好きなことだと特に。小説だとバランスが崩れた時は、別のものを増やして長くすることでバランスを取りますが、映画はある程度長さが初めに決まっているので、そういうこともできないじゃない。その制約のなかで、ほどよく混ぜてよく押し込んだなと思いますね」
佐藤「ありがとうございます!」