レイナルド・マーカス・グリーン監督が語る伝説的アーティストの人間像「『ボブ・マーリー:ONE LOVE』はいまという時代に導かれた映画」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
レイナルド・マーカス・グリーン監督が語る伝説的アーティストの人間像「『ボブ・マーリー:ONE LOVE』はいまという時代に導かれた映画」

インタビュー

レイナルド・マーカス・グリーン監督が語る伝説的アーティストの人間像「『ボブ・マーリー:ONE LOVE』はいまという時代に導かれた映画」

ジャマイカを代表する世界的なアーティストにして、レゲエミュージックのレジェンド、ボブ・マーリー。1981年に36歳で世を去るも、その音楽性や姿勢は世界中に多大な影響をあたえ、現在も新世代のファン層を開拓し続けている。そんな希代のカリスマの生き様にスポットを当てた伝記ドラマ『ボブ・マーリー:ONE LOVE』が日本でも公開され、好評を博している。観客は、この希代のアーティストの生き方に何を見るのか?監督を務めたレイナルド・マーカス・グリーンに話を聞いた。

【写真を見る】レイナルド・マーカス・グリーン監督
【写真を見る】レイナルド・マーカス・グリーン監督撮影/植村忠透

「2年間の物語にした理由は、ボブの人生のなかでも特にドラマティックだったから」

ボブ・マーリーという巨大な存在を撮る。これはフィルムメーカーとして取り組み甲斐のある仕事だが、同時にハードな仕事でもある。なにしろ世界中に熱烈なファンがおり、100人のファンがいれば100とおりの受け止め方があるのだから。

「確かに、この映画の監督をオファーされたときはボブの偉大さを思うと、ためらいがありました」とグリーンは語る。「ただ、自分に何が起こっても、なんらかの理由があって起きたことだと思っています。この映画の話が来たのも理由があるはずです。私はボブが亡くなった1981年に生まれています。彼がロンドンで住んでいた42番地の数字は、私のラッキーナンバーでもありました。また、私のミドルネーム“マーカス”は、マーリーが信奉していたラスタファリアニズムの創始者マーカス・ガーベイから来ています。この映画の舞台であるジャマイカやロンドンに住んだこともあります。そんな要素がすべて重なって、私の背中を押してくれたのです」。

のちに名アルバムとなる『エクソダス』を手掛けるボブ・マーリー
のちに名アルバムとなる『エクソダス』を手掛けるボブ・マーリー[c]2024 PARAMOUNT PICTURES

映画は1976年から78年までの2年間に焦点を絞り、ボブ・マーリーの人間像に迫っている。あえて2年に限定した理由を監督はこう語っている。「ボブの人生は短いながらも、波乱に富んでおり、どこを切り取っても物語になるでしょう。この2年間に絞った理由は、彼の人生のなかでも特にいろいろなことが起こったからです。銃撃事件に始まり、ロンドンへの逃亡、名盤『エクソダス』のレコーディングと発表、世界的な人気の沸騰、そしてジャマイカへの帰国。とにかくドラマチックです」。

ちなみに、グリーン監督の前作『ドリームプラン』(21)も、テニス選手のウィリアムズ姉妹と父親の、ある時代に絞った伝記ドラマだった。「どんな人物でも、一生の物語を映画にすることは可能でしょう。しかし、それでは物語が散漫になることがある。その人物の興味深いストーリーを語るうえで、時期を絞り込むのは有効な手段です」と彼は語る。

「私の仕事は映画というシンフォニーをまとめること」

LIVEシーンにはボブ・マーリー本人の歌声が使用されている
LIVEシーンにはボブ・マーリー本人の歌声が使用されている[c]2024 PARAMOUNT PICTURES

ボブ・マーリーの有名な曲のひとつに、劇中でも奏でられる「リデンプション・ソング」がある。リデンプション、すなわち、“贖罪”。監督は、「この映画のテーマのひとつは贖罪です」とも話す。


「一度映画を観ただけではわかりにくいかもしれませんが、本作はボブ・マーリーという人間の、様々な心の闇を見据える作品でもあります。彼はそれらと葛藤していたんです。『リデンプション・ソング』の歌詞にもありますが、“精神的な奴隷状態から自分を解放して自由になれ”ということにも通じています。ボブの回想として少年時代をイメージ的に描いていますが、彼は自分を捨てた父を許してこなかった。代表的な闇を挙げるとすれば、まさにそれですね。父親を許すことは自分を許すことでもあるのです。ボブは映画のラストで、そんな贖罪に行き着く。そして彼の魂は、死後も子どもたちによって受け継がれていくのです」と抽象的な表現ではあるが、その“赦し”がどういうものであるかは、ぜひ映画を観て確かめてほしい。

初来日を果たしたレイナルド・マーカス・グリーン監督
初来日を果たしたレイナルド・マーカス・グリーン監督撮影/植村忠透

「この映画は私の映画ではありません。ボブ・マーリーの、そして彼の息子ジギー・マーリーの映画です」とグリーン監督は言う。映画監督はある意味、映画作りの最大の責任者であり、“自分の映画”という自負を少なからず持つものだが、その点、彼は謙虚だ。ちなみにジギーは本作のプロデュースを務めている。「謙虚なわけではなく、自分の主義や主張を映画に盛り込まないだけ。映画を通して、私を評価してもらえればそれでいいんです。ほかの仕事に例えるならば、指揮者のようなものですね。オーケストラの指揮者は自分で音を出すことはない。それでもシンフォニーを奏でるには必要な存在です。私の仕事は映画というシンフォニーをまとめることだと考えています。それによって評価されるのであれば、幸運なことですね」。一歩引いて、作品を立てるグリーン監督の姿勢は、それでも謙虚に映るのだが、どうだろう。

レイナルド・マーカス・グリーン監督が描いたボブ・マーリーの“贖罪”とは
レイナルド・マーカス・グリーン監督が描いたボブ・マーリーの“贖罪”とは[c]2024 PARAMOUNT PICTURES

争いのない世を願ったマーリーの“ワン・ラヴ”という思想は、本作にも脈づいている。2024年も世界は紛争にあふれており、平和とは程遠い状況にある。「この映画は、今という時代に導かれたように感じています」と監督は語る。内紛のジャマイカに生まれ育ったボブ・マーリーは過酷な時代を生き抜き音楽をとおして、多くのメッセージを伝えてきた。「ノー・ウーマン、ノー・クライ」「ゲット・アップ・スタンド・アップ」「アイ・ショット・ザ・シェリフ」「エクソダス」、そしてもちろん「ワン・ラヴ」など、本作を彩る数々の名曲はそれを如実に伝えている。そう、『ボブ・マーリー ONE:LOVE』は、いまこそ観るべき映画なのだ。

取材・文/相馬学

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