「観客が思っていることを完全に覆したい」イシャナ・ナイト・シャマランが語る、『ザ・ウォッチャーズ』に仕掛けた父譲りのサプライズ
「ダコタ・ファニングと一緒に過ごすことで、ミナが作られていった」
とりわけイシャナが自己を投影した登場人物は、やはり主人公のミナだという。「脚本を執筆している時には、私の分身であったことは間違いありません。罪悪感を感じたり、人とどう接したらいいのかわからない感情。自分が誰であり、この世界のどこにいるべきなのかという怒りや混乱がすべて、ミナに注ぎ込まれています。ですが、自分自身のカタルシスとして映画を使うことは正しいやり方ではありません。準備をしているうちに、自分を少し引き離さなければならないと気付きました」。
そのミナ役にファニングを配したのは、イシャナの希望によるものだった。「ミナのように説明の難しいエッセンスを持ち合わせた人を探していました。私は子どもの頃からずっと、ダコタがいろいろな作品に出演しているのを見ていますが、彼女は別世界の住人のようでいて、かつとても現代的な資質も備わっている。そして何年もこの業界で経験を積んできた彼女はどんな演技も自然体でやってのける。幸運なことに、彼女はこのプロジェクトにとても興味を持ってくれました」。
そしてイシャナとファニングは映画について、ミナという人物のキャラクターについて、そしてお互いのことについてじっくりと話し合いを重ねていったという。「ダコタと一緒の時間を過ごし、彼女をすばらしい人物だと思ったことから、ミナ像が作られていきました。脚本のなかのミナは私自身の要素を持って生まれましたが、ダコタが演じてくれたことで独立した自我を持ったキャラクターになっていったのです」。
現在24歳のイシャナ。父の作品で第二班監督を務め、父が製作総指揮を務めたApple TV+シリーズ「サーヴァント ターナー家の子守」で脚本と監督を手掛けた彼女は、多くのクリエイターや映画から影響を受けたと明かす。そこには父の存在も含まれているが、クシシュトフ・キェシロフスキやジョン・カサヴェテス、エリア・カザン、さらには小津安二郎や新藤兼人、そして宮崎駿と、本作のようなホラージャンルとはかけ離れた意外な監督たちの名前が次々とあげられていく。
「私はホラー的な空間が大好きで、もっともエキサイティングに感じます。ですが、やるからにはそのジャンルを破ることに常に興味があります。いつも違う要素を取り入れていくことに興味があり、さまざまな要素を同じ世界のなかに持ち込むことで新鮮なものを生みだすことができる。この映画でもホラージャンルに対する観客の期待と“お決まりごと”を利用して、皆さんが思っていることを完全に覆したいと思っています」と、父の作品を超える“サプライズ”を観客に与えることを誓った。
文/久保田 和馬