新垣結衣と瀬田なつき監督が映画『違国日記』に込めた原作への敬愛と、二人三脚で作り上げた撮影現場

インタビュー

新垣結衣と瀬田なつき監督が映画『違国日記』に込めた原作への敬愛と、二人三脚で作り上げた撮影現場

「ほとんどアドリブのような撮り方のおかげで自然な朝ちゃんの笑顔が見られた」(新垣)

――もう一人の主人公である朝を演じた早瀬憩さんは、オーディションで選ばれた新星。映画の現場も初めてだったとのことですが、新垣さんとの相性はいかがでしたか?

瀬田「穏やかな現場にしたいと思っていましたが、新垣さんもリラックスした雰囲気を作ってくださいました。本当に槙生と朝の関係のような、ベタベタしてるわけでもなく、かといって冷たいわけでもない。言葉がなくても槙生が朝を心配しているような空気感が伝わってきました。朝も槙生も自由人なところがあるので、そんな2人の空気感の中で生まれてくるものをなるべく大切に撮っていけたらと思っていました」

新垣「撮影が始まってからけっこう長い期間、メインとなる槙生の自宅シーンをまとめて撮っていたので、朝から晩まで憩ちゃんと2人で過ごしました。そこで縮められた距離感は大きかったなと思います。憩ちゃんも私もマイペースなので、お互いに心地良いペースとかスペースを守りつつ、それぞれ台本をチェックしたり一緒にお菓子を食べたり。映画の現場が初めてだとは思えないくらい堂々としていて、本当に現場が好きで演技をすることが好きという感じでしたね」

瀬田「初日から自分の家のようにソファにごろんとしていて大胆だなと(笑)。現場で臆することなくのびのび演じていて、新垣さんとのバランスもとてもよかったです」

お互いマイペースだという早瀬と新垣
お互いマイペースだという早瀬と新垣[c]2024 ヤマシタトモコ・祥伝社/「違国日記」製作委員会

――槙生、朝、槙生の親友・醍醐奈々(夏帆)の3人のシーンは、女性同士の連帯の描かれ方がとてもすてきでした。ひとつめは槙生の家に遊びに来た醍醐が朝と初めて出会い、“包団(ぱおだん)”というチームを結成して3人で餃子を作って食べるシーン。夏帆さん演じる明るく社交的な醍醐のおかげで槙生と朝の距離がぐっと縮まっていきます。ここのシーンは動きだけ決めてあとは自由に演じたとか?

新垣「本当に自由でした(笑)。餃子を作り始めるところからスタートして、ざっくりその場で流れだけを決めて。本番でそれ以外のことをやってもいいし、やらなくてもいいし…という感じだったと思います。ほとんどアドリブのような撮り方をしていただいたおかげで、自然な朝ちゃんの笑顔が見られたなと思います」

原作での槙生の食べ方をオマージュしたと語る新垣
原作での槙生の食べ方をオマージュしたと語る新垣撮影/河内彩

瀬田「あんまり何回も撮れないなと思って、長回ししたシーンです。編集していて気づいたんですが、みんなすごく熱そうで、でもおいしそうに食べていて。いい表情でした」

新垣「チーズ入り餃子がちょっと熱かったです(笑)。原作の、槙生が食べ物を口に含んだままモゴモゴしてなにを言っているのかわからないシーンがすごく好きで、オマージュしたいなと思って一気に頬張りました。あそこは朝ちゃんが思い描く“大人像”を徐々に壊していくシーンでもあって、そのために今回の映画のなかで『槙生のいろんな表情を見せたいね」と監督と話していたので、朝だけに見せる顔もあれば醍醐にだけに見せる顔もあって、それを朝が目撃した時にいい意味で“大人像”が崩れていくことを意識しました」

槙生の親友、醍醐奈々を演じた夏帆とのシーンにも注目
槙生の親友、醍醐奈々を演じた夏帆とのシーンにも注目[c]2024 ヤマシタトモコ・祥伝社/「違国日記」製作委員会

――もう一つの3人のシーンもとても自然体でした。公園を歩く槙生と醍醐に合流した学校帰りの朝が、軽音部でボーカルをしたいけど立候補できなかったことを打ち明けます。そんな朝の背中を押すかのように槙生が井上陽水の「夢の中へ」を歌い始め、3人で合唱しながら歩きます。

瀬田「朝が一歩を踏みだすシーンへとつながっていくので、槙生から歌い始めることで言葉ではない表現で朝の背中を押せたらなと思って(脚本を)書きました。書いてはみたけど、公園でいきなり歌いだすって大丈夫かな?という不安はあって。でも新垣さん、早瀬さん、夏帆さんの3人だからこそ撮れた、想像以上のシーンになりました。いや、あのシーンの新垣さんは本当にいいんですよ。テイクごとにリアクションを変えていて、それは私しか知らないですけど(笑)」

新垣「槙生って無愛想な印象もありますが、無理に笑顔などを作らないというだけで本当にいろんな表情をする人だなと思うんですよね。だからあまり演技を決めすぎず、シーンごとに相手との間で生まれる反応を素直に出していました。それでテイクごとに違うことをしていたのかもしれません(笑)」

「誠実に向き合って日々を重ねていくことでかけがえのない関係を築くことができる」(瀬田)

あまり演技を決めすぎずに撮影に挑んだという
あまり演技を決めすぎずに撮影に挑んだという撮影/河内彩

――本作のテーマを「わかり合えなくても、寄り添えることを知った」というキャッチコピーが表現していますが、『違国日記』という作品に向き合ってこの言葉をどのように受け止めていますか?

新垣「すごく好きな言葉です。朝の自宅を掃除しに行くシーンで、『私の気持ちをあなたは決して理解できない。私があなたの気持ちを理解できないのと同じように。あなたの感情も、私の感情も、自分だけのものだから』というような槙生のセリフがあって。原作ではそのあとに、『だから歩み寄ろう』『わかり合えないのに?』『わかり合えないから』と続きます。こういう寄り添い方を大事にしたいなと思います」


瀬田「互いに見えているものや感じることは違っても、誠実に向き合って日々を重ねていくことで、かけがえのない関係を築くことができると槙生と朝が教えてくれました。本作を観てくださった方が映画館を出て、見慣れたいつもの風景が少しでも違って見えたらいいなと思います」

お互いに長い時間をかけて語り合った末に完成した映画『違国日記』
お互いに長い時間をかけて語り合った末に完成した映画『違国日記』撮影/河内彩

取材・文/石川ひろみ

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