杏、映画『かくしごと』公開記念舞台挨拶で母の顔。「子どもたちと川でピクニックをしました」
映画『かくしごと』(公開中)の公開記念舞台挨拶が6月8日、テアトル新宿にて開催され、主演の杏、共演の中須翔真、奥田瑛二、関根光才監督が登壇した。
本作は北國浩二の「嘘」を原作に、一つの“嘘”をきっかけに子を守る母親の強烈な愛と嘘の物語を描くヒューマンミステリー。主人公の千紗子を杏、認知症を患い、娘のことすら忘れて、日に日に別人のように衰えてゆく父の孝蔵役を奥田が、そして、少年(拓未)役を中須が演じている。
千紗子について「強い女性」と語った杏は、自分が正しいこと思ったこと、守りたいという思いから社会の通念や法律はすべて置いてやり切っている姿に「自分だったら途中でブレーキがかかるかも」と想像しながら演じていたと振り返り、現実ではなかなかできないことだからこそ「映画で思い切りできてよかったです」と充実感を滲ませた。
事故で記憶を失った少年を演じた中須は「最初は不安だったと思います」と演じた役の心情に寄り添い、「でも、最終的には『僕はこのお母さんがいい!』と思っていたと思います」と気持ちの変化を感じていたことを明かしたと語り、大きな拍手を浴びていた。
孝蔵役の奥田は現場ではもちろん、クランクイン数日前から役が体に入っていたようで、「家で妻にから『もう役をやっているの?』と訊かれました(笑)」と苦笑い。認知症の方のいる施設を訪れたそうで、「友達になり、話をして、一緒にご飯を食べて、観察させていただきました」と役作りに触れた奥田は「自分のなかで咀嚼して役をこしらえて現場初日に入りました」とコメント。
撮影中はすっかり孝蔵になっていたため、最初は「話しかけづらい感じがありました」と話した中須。中須には脚本が渡されていなかったため、演じた役と同じく不安を感じていたかもしれないと関根監督がフォローすると「一緒に粘土を食った仲じゃないか〜!」と奥田が劇中のワンシーンを挙げ、距離が縮まっていった様子を指摘。中須も「徐々に慣れていきました。なじめました(笑)」と笑みを浮かべ振り返っていた。
原作と映画のラストが違うことについて関根監督は「原作には後日談が書かれているけれど、映画では想像を膨らませてほしいという思いで、変えました」とし、千紗子の感情が愛だったのかどうかなど、いろいろと考えてほしいと呼びかけ、「原作を読むとその後の物語が楽しめます!」と映画と原作を合わせて味わってほしいとおすすめする場面もあった。
イベントではタイトルにちなみ、いまだから言える撮影時の“かくしごと”を発表するコーナーも。撮影に自分の子どもたちを連れて行った杏は「川遊びのシーンを撮影した後、空き時間があったので、自分の子どもと川でピクニックをしました」と母の顔で微笑ましいエピソードを披露。「ダイエット」と答えた中須は「役でダイエットをする必要があって。ちょうど撮影前にコロナにかかってしまい、2キロ痩せました。皆さんにはご迷惑をかけたけれど、痩せることはできました」と振り返った。
関根監督はクランクアップ後に中須からもらったプレゼントのハンカチをが手放せなくなったと明かし、「撮影終了後に中須くんが泣いていて。離れがたく思ってくれたんだなと思い、僕もつられて泣いてしまいました。その時もらったハンカチがとても尊いものに感じて…」とポケットからハンカチを取り出す。実際に他の現場にも持っていくそうで「ジンクス、お守りのようになっています。娘が作ってくれたミサンガと一緒にいつも現場に必ず持っていきます」と話した関根監督。赤ちゃんがタオルケットを離せなくなっているのと同じ状況とたとえた関根監督に、奥田が「そのうちしゃぶりだすね(笑)」とすかさずツッコミを入れ笑いを誘う。「ずっと大事にしてください」と微笑む中須の姿に、杏も奥田も関根監督も目を細めていた。
最後の挨拶で杏は、「自分だったらどうする?あなただったらどうする?と誰かと話したくなる映画です。よろしければ、映画を何度も味わって、誰かと話してみてください」と呼びかけ、大きな拍手を浴びながら、イベントを締めくくった。
取材・文・/タナカシノブ
※「嘘」は正字が正式表記