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『ホールドオーバーズ』アレクサンダー・ペイン監督が明かす、日本の巨匠・黒澤明から教わった映画作りのモットー

インタビュー

『ホールドオーバーズ』アレクサンダー・ペイン監督が明かす、日本の巨匠・黒澤明から教わった映画作りのモットー

「スタッフやキャストには70年代初頭の映画を観てもらって、その空気感を身体に染み込ませてもらった」

置いてけぼりの3人がクリスマスパーティへ
置いてけぼりの3人がクリスマスパーティへSeacia Pavao / [c]2024 FOCUS FEATURES LLC.

上質な脚本と演技に加え、『ホールドオーバーズ』のもう一つの魅力が、1970年代という時代の再現。セットや美術はもちろん、映画のムード自体にどこか70年代っぽさが意識されている。そこにはペインのこだわりもあったようだ。
「私は難しいゲームにチャレンジしたのです。それは、現在から70年代を振り返るのではなく、実際に私たちが70年代にいると思って映画を作ったらどうなるか…というゲーム。時代を遡った映画の多くは、美術や衣装がちょっとカートゥーン(漫画)的になりがち。私はそのあたりを70年代の“平凡”なデザインにして、リアリティを追求しました。撮影や美術、衣装のスタッフやキャストには、70年代初頭の映画を観てもらって、その空気感を身体に染み込ませてもらいました。特に当時の映画を知らない若いドミニクには、70年代映画の“キャラクター主導”の質感を知ってほしかったんです」。

『卒業』(67)、『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』(71)、『コールガール』(71)、『さらば冬のかもめ』(73)、『ペーパー・ムーン』(73)を観たことによって、本作のスタッフ&キャストは1970年代を体現することに成功した。さらにペインは映画作りにおいて大切なモットーに、本作で忠実になれたという。それは、日本の巨匠が語った言葉から得たものだ。
「映画で最も大切なのが“楽しませること”と“理解されやすいこと”。そのうえで好きな表現をするべきというモットーを、私は“センセイ(日本語で)”、いや“センセイ”では物足りない“テンノウ”から教えられました。黒澤明監督です。私は20代から30代にかけて、アメリカ、イタリア、日本のクラシック映画をたくさん観て学びました。なかでも日本映画は1930年代から1980年代まで、宝物を次々と発見しました。黒澤作品は20代にすべて鑑賞し、1986年にロサンゼルスで彼の講演を聞けた思い出は忘れがたいです。ちょうど1週間前に、大好きな作品『赤ひげ』のフィルム上映を観に行ったところなんです」。

撮影や美術、衣装、音楽…こだわりのディテール満載で1970年代を雰囲気をリアルに再現
撮影や美術、衣装、音楽…こだわりのディテール満載で1970年代を雰囲気をリアルに再現Seacia Pavao / [c]2024 FOCUS FEATURES LLC.

アレクサンダー・ペインも現在、世界の映画監督が目標とする存在になった。ヒューマンドラマの名手という点では黒澤明にも並ぶ才能だと感じるが、これだけの傑作を放ち続ける“秘密”はなんなのだろう。
「特に秘密はありませんよ(笑)。私はオールド・ファッションの古典作品が好きで、そのスタイルを踏襲しているからかもしれません。監督自身が“私に注目して”とアピールするスタンスではなく、“この物語を観て”“こんな人々を観て”という作品が理想であり、今後も私はそこを徹底していくだけです」。

『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』は公開中
『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』は公開中Seacia Pavao / [c]2024 FOCUS FEATURES LLC.

巨匠ながら、このペインの奥ゆかしさこそが、『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』のような珠玉作を生む“秘密”なのかもしれない。


取材・文/斉藤博昭

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