『化け猫あんずちゃん』久野遥子監督と山下敦弘監督が多摩美の大学生たちに熱いエール「自分の表現を突き詰めて」
いましろたかしの人気コミックを、久野遥子と山下敦弘がW監督を務め、俳優の森山未來が主人公の化け猫の声と動きを担当した『化け猫あんずちゃん』(7月19日公開)のスペシャルトークイベントが6月29日に、久野監督の母校である多摩美術大学にて開催。多摩美の大学生たちに向けた試写会を実施したあと、久野監督、山下監督が登壇し、映画の制作裏話や海外映画祭のエピソードを語ったあと、学生たちに熱いエールを贈った。
第77回カンヌ国際映画祭「監督週間」にて公式上映され、アヌシー国際アニメーション映画祭2024長編コンペティション部門へも正式出品された注目作『化け猫あんずちゃん』。イベントでは、事前に募集した「化け猫あんずちゃん」、「猫」をテーマにした、多摩美術大学の学生たちによる作品について、久野監督と山下監督が特別講評やアドバイスも行った。
映画の上映が終わり、多摩美の学生たちの温かい拍手に迎えられた両監督。まずは久野監督の恩師でもあるグラフィックデザイン科の野村辰寿教授より監督のフィルモグラフィーを紹介。久野監督の卒業制作で第17回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門新人賞受賞作品でもある「Airy Me」も上映された。野村教授は「作品が発表された時、業界を震撼させた」と当時を振り返ると、山下監督も「改めてスクリーンで観るとすさまじい迫力!」とそのクオリティに驚きの表情を見せた。
続いて山下監督は、『化け猫あんずちゃん』を手掛けたきっかけについて野村教授に尋ねられると「この企画はシンエイ動画の近藤プロデューサーによるもので、彼は昔、僕の作品の助監督で、ほかにも久野監督がロトスコープディレクターを務めた『花とアリス殺人事件』でも助監督をしていました。そんな彼がシンエイ動画に入って最初に立ち上げた企画が『化け猫あんずちゃん』でした。彼が久野さんと僕を引き合わせたっていうのが始まりです」と振り返る。
実写で撮影され、ロトスコープでアニメ化された本作。実際に森山が演じたあんずちゃんの映像とアニメの比較動画を上映すると山下監督は「動きとかタイミングとかは実写のタイミングなのですが、やっぱりあんずちゃんはフォルムも変わってますし、久野さんの方でもう一度演出をやり直してくれました」と、森山をあんずちゃん化する際の久野監督の苦労についてコメント。
続いて久野監督が「あんずちゃんのようなデフォルメの強いキャラクターをどのように表現するかというのをかなり探った気がします。パイロット版のときはもうちょっとリアルな感じで、あんずちゃんの動きももう少し細かくしてたりしたのですが、細かすぎると絵の奥にある実写を意識させすぎてしまうので、映画では潔く止めるところを作ったりしました。動きの緩急は最後まで探っていたところでもあります」と、そのこだわりを解説した。
8年前からスタートした本作の企画。この長い道のりについて山下監督は「結果的には8年かかっちゃったなという感じですが、その間に久野さんと豊島区のPR映像を担当させていただいたり、パイロット版を作ったりと、段階を踏んでいきました。とにかく最初はこれが映画になるのかなという漠然とした不安があったのですが、それを乗り越えて、フランスとの合作になったり、とにかく形になったのが嬉しいです。実写チームとアニメチームとフランスチームという、それぞれ別の畑の人間が奇跡的にうまく機能しています。いろんな感性の集合体のような作品になっていき、それが作品の強みになっています」とコメント。
久野監督は「私は映画というものにすごく憧れがあったので、まずそれが作れたのが嬉しいです。ひょんなことから日仏合作となったあんずちゃんは、日本のアニメの作り方を踏襲しているのですが、自分なりの表現方法を入れて、少し新しく見慣れないものが作れたのかなと思います。また、山下さんと組んだおかげで、生のお芝居の大切さに気づきました。アニメーションは基本的に頭のなかで描くというものなのですが、そこだけになってしまうと視野が狭くなってしまう時があります。この作品はすごく広がりのあるものにできました」と作品への手応えを口にした。
イベントの最後には、アーティストの卵である多摩美の学生に向けて久野監督と山下監督よりメッセージが贈られた。久野監督は「あんずちゃんは作るのに時間がかかった作品です。皆さんも作品をなかなか世に出せなくて焦る気持ちもあると思うのですが、時間をかけて見せたい人たちに伝わるように作るということも大切だと思うので、自分の表現を突き詰めて自分がやりたいことを本当に見せられるようになってくれたらいいなと思います」とエールを贈った。
山下監督は「本気になって作品を1つ作って、それで将来が決まるわけではなく、将棋でいうと1つコマが進んだくらいのことです。ただ、社会というものはそれの連鎖になっていて、作ったものがその次に繋がっていきます。まず学生時代はとにかく自分の恥ずかしいものを含んだ大きな名刺を1つ作ってほしいなと思います。そうしていくと、どんどんおもしろい人に出会えるようになっていきます。僕もそうやって久野さんと出会いましたが、まさか自分がアニメを作るようになるとは思いませんでした。過去に作ってきたものがいまに繋がったり、この先に繋がったりするので、1個1個手を抜かずにやっていくとおもしろい人に出会えるので、頑張って行ってほしいなと思います」と学生たちを激励し、イベントは幕を閉じた。
文/山崎伸子