民泊の床下から白骨が…オカルトホラー『怨泊 ONPAKU』に込められた“映画体験”への想い
香港から東京へとやってきた女性が、古びた民泊で想像を絶する恐怖に直面する…。香港と日本のスタッフ・キャストがタッグを組み、海外の映画祭で称賛を浴びたオカルトホラー映画『怨泊 ONPAKU』(公開中)が満を持して日本上陸。
従来のホラー映画に一石を投じるような複雑な構造をもった本作を紹介するため、メガホンをとった藤井秀剛監督にコメントの提供を依頼したところ、プロモーションで多忙を極めるなかにもかかわらず快諾をいただいた。そこで本稿では、藤井監督の想いのこもったコメントと共に本作の魅力に迫っていこう。
不動産関係のCEOとして働くサラ(ジョシー・ホー)は、不動産開発用の土地の購入と休日を兼ねて東京へとやってくる。しかし宿泊先のホテルの予約に手違いがあり、彼女は老婦人が営む不気味な民泊に泊まることに。室内の不気味さに不安を感じながら夜を過ごす彼女は、そこで女を痛めつける男の不気味な光景を目撃。さらに部屋の床下からは白骨が発見され、やがてサラは逃れることのできない怨念と因縁に触れてしまうこととなる。
カルト的人気を獲得した『狂覗』(17)や、ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭で日本人初のアジアグランプリに輝いた『超擬態人間』(20)の藤井監督は、一貫してジャンル映画にこだわり続けてきた作り手。「海外のジャンル映画は、恐怖の背後に社会問題を暗喩し、観客の潜在下に訴えかける作風がある。僕はソコを通した深い映画体験を観客に与えられる作品をつくりたい」と語るように、本作にも目を背けたくなるような悪意と狂気に満ちた世界の奥に、現代の日本社会にも通じるさまざまなテーマが介在している。
「当初のオファーでは『ポルターガイスト』とまったく同じ話にヤクザが絡む、なんともお粗末な話をジョシー・ホー主演で撮らないかというものでした」と、本作の成り立ちについても振り返る藤井監督。香港で俳優や歌手として活躍し、ハリウッド映画にも出演するジョシー・ホーの大ファンだった藤井監督は、自ら新しい脚本を作ることを条件にオファーを承諾。「日本人として世界になにを伝えたいか?」ということを念頭に置いて本作を作りあげたという。
日本に先立って公開された香港やマレーシアなど、アジア各国で旋風を巻き起こした本作。とりわけ海外の映画祭での反響は大きかったようで、「本作の背景にある意図を根掘り葉掘り探られる、熱い討論会になりました」と振り返るほど。「エストニアで行われたタリン・ブラックナイツ映画祭では、『最高にユウツな映画をありがとう。日本に行きたくなくなった』と泣きながら言われました」というエピソードも。
そんな“ユウツ”な世界を構築するうえで一役買っているのがビビッドで悪夢のような映像表現。撮影を担当したのは黒澤明監督の作品でキャリアをスタートさせ、これまで岡本喜八監督や大林宣彦監督ら名だたる監督たちと組んできた大御所カメラマンの加藤雄大。藤井監督も「ダイナミックな撮影のおかげで、普通にない画になったと思います」と太鼓判をおす。
そして「ラスト15分はこだわりのクライマックスで、撮影と編集と音楽が見事に融合したと思います」と強い自信をあらわに。世界で名を轟かせる鬼才が香港を経由して日本に放つ、一度観たら忘れられない陰鬱とした恐怖。是非ともスクリーンで、この悪夢的世界を目撃してほしい。
文/久保田 和馬