長澤まさみ「愛とは変化するものだからすごく難しい」

インタビュー

長澤まさみ「愛とは変化するものだからすごく難しい」

劇団「イキウメ」の人気舞台を黒沢清監督が映画化した『散歩する侵略者』(9月9日公開)で主演を務めた長澤まさみ。彼女が演じたのは、「地球を侵略しに来た」と、信じがたいことを急に口走るようになった夫・真治に翻弄される妻・鳴海だ。長澤にインタビューし、真治を演じた松田龍平との共演エピソードを聞いた。

数日間行方不明だった真治がようやく妻・鳴海のもとへ帰ってきた。真治の様子に異変を感じつつも、いつもどおりの日常を送ろうとする鳴海。やがて、真治は地球にやってきた侵略者によって体を乗っ取られ、別人格のようになっていることが判明する。

真治役の松田について「ぴったりな役柄だと思いました」と太鼓判を押す長澤。「真治は何を考えているのかわからない雰囲気をもっています。そういう深みは、芝居以上のものを元々持っている人じゃないとできないと思いました。また、真治は可愛くて笑えるんです。E.T.のようにみんなから愛されるキャラクターでした」。

鳴海は真治に振り回される役どころのため終始ご機嫌斜めで、中には真治をボコボコ叩くシーンもあった。「私はその時、叩くことに少し躊躇してしまいました。でも松田さんが『思い切りやってくれ』と言ってくれたし、黒沢監督も『フランス映画では、ボコボコにしたりしていますよ』と言って下さって。やっぱりそこは遠慮しちゃダメだなと思って。あのシーンは周りの人にすごく支えられてできた感じでした」。

後半のホテルでふたりがやりとりをするシーンは、台本を読んだ時から涙が止まらず、演じる前から楽しみにしていたそうだ。「なんだか神聖なものを感じたし、相手に与えるものもすごく大きかったので感動的で。みんながそのシーンを大切にしてくれていたことも感じていました」。

妻が死んだ夫と旅をする『岸辺の旅』(15)や、夫婦が隣人の殺人鬼に出会う『クリーピー 偽りの隣人』(16)など、非常時における夫婦関係を題材としてきた黒沢監督。本作では、地球にやってきた「侵略者」を巡るサスペンスドラマを通して、愛とは何かを問うている。

そこで、長澤に“愛”とは何か、と尋ねてみた。「ひと言では表せないものですね。それぞれ違うし、形にないものだから。与えるものでもあり、受け止めるものでもあります。与えてばかりだと成立しない感情だし、後から知ることもありますよね。大人になってから、初めて愛情だったと気付き、それが自分の中で大切なものになったりもします。変化するものだからすごく難しいと思います」。

また、長澤は女優業について「いい意味でも悪い意味でも自分と向き合う仕事」だと思っているそうだ。「自分の嫌な部分も知ることになるんです。そんな自分は嫌だから、人に優しくしようとも思う。つまり優しさという感情を教わる仕事だなとも思っています。そう考えてみると、なんだか不思議な仕事ですね」。

SFサスペンスだが、とても懐が深い本作。観終わった後、“愛”とは何かについても改めて考えさせられる。【取材・文/山崎伸子】

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