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犬童一心監督が『インサイド・ヘッド2』の主人公、ライリーに贈りたい言葉「遠い未来のために“いま”を犠牲にする必要はない」

インタビュー

犬童一心監督が『インサイド・ヘッド2』の主人公、ライリーに贈りたい言葉「遠い未来のために“いま”を犠牲にする必要はない」

「遠い未来のために“13歳のこの時”を犠牲にする必要はない」

――ライリーは今回、2人の親友が別の高校への進学を考えていることを知って、心が千々に乱れてしまいます。彼女としては一緒にアイスホッケーができると思っていたんですよね。

親友たちと一緒にアイスホッケーキャンプに参加することになったライリーだったが…(『インサイド・ヘッド2』)
親友たちと一緒にアイスホッケーキャンプに参加することになったライリーだったが…(『インサイド・ヘッド2』)[c]2024 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

「いろいろとネガティブな感情を抱えているライリーが後半、アイスホッケーの練習試合の途中に過呼吸みたいになるじゃないですか?この症状は、彼女が次の段階に入ったことを意味しているんですが、その時彼女がプレイしていたアイスホッケー場に降り注ぐ光の粒子が変わる。思春期にはそういうこと、なにかが起きて世界が変わって見えるという瞬間があって、この作品ではそれを光の粒子の変化で映像化している。光が変わって、世界がもっと奥深く、自分にとって大きくなるというような感覚。ライリーはその時、ネガティブだと思っていた感情をも自分のなかに引き入れることができるんですが、このアニメーションはその感覚をちゃんと言語化し映像化しているんです」

――だからこそ、みんなにも伝わるという感じなんでしょうか。

「僕は、『ライリー、こんな美しい光、40歳になったらどこを探しても見つからないよ』って教えてあげたくなったくらいで(笑)」

――前作ではヨロコビが司令部のメインとして活躍していましたが、今回は新しい感情のシンパイが奔走しています。

「本作の感情のメインキャラクターはシンパイですよね。なぜシンパイ=不安が生まれるかというと、未来を考えてしまうから。幼い時は普通、未来のことなんて考えないので前作にはいなかった感情です。でも、思春期になると先のことを考える、考えてしまう。いまや年寄りの僕が思ったのは、遠い未来のために“13歳のこの時”を犠牲にする必要はないということ。アイスホッケー場のとても美しい光のなかにいるのに、将来、いい仕事に就くといった不明瞭な未来のために、その美しい瞬間を手放す必要はないんじゃないの?ということです。おそらく本作のクリエイターたちも僕と同じような気持ちで、この“光”を創造したんじゃないでしょうか」

――犬童監督がそう思ったのは、自分の思春期を思い出したからですか?

「そうですね。そういうことに僕が気づいたのはやはり思春期の14歳のころだったんです。僕はその年齢で新しい世界へと足を踏み入れた。具体的に言うと、映画館に通うようになり、少女漫画に出会ったんです。子どものころから映画は大好きだったんですが、ひとりで劇場で映画を観るようになったのはこの年ごろ。親には内緒で、『ぴあ』を片手に名画座巡りを始め、それまで観なかったような映画、(ベルナルド・)ベルトルッチの『暗殺の森』や『フェリーニのローマ』とかを観てましたね。

もう一つ、僕に大きな影響を与えた少女漫画、初めて読んだのは萩尾望都さんの『トーマの心臓』だったんですが、本当に偶然、手に取ったという感じ。衝撃的でした。『少女漫画界にはこんなすごい作家がいるんだ』と気づき、それから大島弓子さんや山岸凉子さんを読み始めた。彼女たちの漫画を読んで驚いたのは“いまが重要”ということを描いていたからです。それまで僕が親しんでいた少年漫画のほとんどは、未来のためにいまがんばって闘っているという物語。昔のほうがより家父長制社会だったからその色が相当濃厚だったんじゃないかな。目的のためにいまを犠牲にしろ。そうすれば最終的に夢は叶う、そんな話ばかりですよ。それに対して少女漫画は“いま”なんです。“いまその時”に少女が見ている世界が重要なのだと語り掛けるんです。僕はそれにとても影響された。僕の作品はその影響下にあり、いまだに抜けられないでいる。同世代の監督で言うと、岩井俊二さんもそうだと思う。彼はくらもちふさこさんが好きだったんじゃないかな。僕は大島弓子さんが大好きなんですけどね。

ライリーのような年ごろの子たちにとっては、“いまが重要”だと語った犬童一心監督
ライリーのような年ごろの子たちにとっては、“いまが重要”だと語った犬童一心監督撮影/杉映貴子

つまり、なにがいいたいかというと、本作のクリエイターたちは、そういう僕と同じ感性を持っているんじゃないかということ。思春期の捉え方、根本的な考え方がとても近いように感じました。ライリーの場合は、そのきっかけがアイスホッケーの今回の試合で、僕の場合は映画館通いや大島弓子だったというだけ。それぞれが思い当たるふしがある。これは、そういう自分の思春期を思い出させてくれるアニメーションだと思います」

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■犬童一心
1960年、東京生まれ。高校時代より映画製作を行い、『気分を変えて?』(78)がぴあフィルムフエスティバル入選。大学卒業後は、CM演出家としてTV-CMの企画・演出を手掛け、数々の広告賞を受賞。1999年に『金髪の草原』で商業映画監督デビューし、その後『ジョゼと虎と魚たち』(03)、『メゾン・ド・ヒミコ』(05)、日本アカデミー賞優秀作品賞・監督賞を受賞した『眉山 びざん』(07)、『ゼロの焦点』(09)、『のぼうの城』(11)や『ハウ』(22)などを手掛ける。
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