犬童一心監督が『インサイド・ヘッド2』の主人公、ライリーに贈りたい言葉「遠い未来のために“いま”を犠牲にする必要はない」
「あらゆる世代に訴えかける、まさに全方位のアニメーションですよ」
――1作目のラスト、“思春期”と書かれたボタンが出てきて「これはなに?」みたいなセリフがある。それに応えて生まれたのが本作なら、次回作もありそうですね。
「次はきっとライリーが17歳ですよ(笑)。そう限定しちゃったのは、僕が初めて映画を撮ったのが17歳だったから。17歳の春休みに8mmで映画を撮り始めた。それは自分にとっては次の領域になる。“これは僕の遺書、17歳の僕をこの映画に閉じ込める”というような覚悟をもって撮り始めたんです。少女漫画の影響で1977年の7月17日の一日だけを映画にすると決めていました。この日はキャンディーズ解散コンサートの日、事務所にも告げず抜き打ちで『解散する』と発表して(笑)。ちなみに僕のこの作品、『気分を変えて?』というタイトルなんですが、ぴあフィルムフェスティバルに入選したんですよ。
『インサイド・ヘッド2』を観て思い出したのはその短編を撮影していた時に感じたアスファルトの熱さです。夏真っ盛り、撮影中、立入禁止の道路、喉が渇き、疲れてそのアスファルトの上にごろんと横になった時、背中から伝わってきたあの熱。最悪の状態にもかかわらず、最高だと思ったんです。まるで自分が世界とひとつになったような感覚。それってライリーが、あのアイスホッケー場の光に入っていく感覚と似ているんじゃないかなって」
――ついいろんなことを思い出してしまうんですね。
「すでに思春期を通り越した人たちは、『そうそうこんな感じだった』と、そういう経験を感覚的に思い出すし、当然、ライリーと同世代のティーンエイジャーは自分と重ねて『その気持ち、わかる!』と思う。近い将来、彼女の年齢になるだろう子どもたちも、『こういう経験が待っているんだ』と思うかもしれない。あらゆる世代に訴えかける、まさに全方位のアニメーションですよ」
――最後に、犬童監督のお好きなピクサーアニメーションは?
「『トイ・ストーリー』など、初期の作品も好きなんですが、1本となると『カールじいさんの空飛ぶ家』かなあ。カールじいさんのキャラクターがよかった。おそらくスペンサー・トレイシー(『老人と海』などで知られる往年の名優)をモデルにしているんだと思うんですが、日本で実写化するなら山崎努さんが演じるといいなあ、とかね。一番、感心したのは省略というか話の飛ばし方です。無数の風船を家に括りつけて飛び立つのに、風船の調達等の準備シーンはナシですから。そういうことをやって違和感がないのは、観客とのコミュニケーションが上手いからなんだと思います」
――『カールじいさん~』の監督は本作の製作総指揮で、1作目の監督を務めたピート・ドクターですよ。
「そうなんだ。僕と気が合うのかな(笑)」
取材・文/渡辺麻紀
※山崎努の「崎」は「たつさき」が正式表記
■犬童一心
1960年、東京生まれ。高校時代より映画製作を行い、『気分を変えて?』(78)がぴあフィルムフエスティバル入選。大学卒業後は、CM演出家としてTV-CMの企画・演出を手掛け、数々の広告賞を受賞。1999年に『金髪の草原』で商業映画監督デビューし、その後『ジョゼと虎と魚たち』(03)、『メゾン・ド・ヒミコ』(05)、日本アカデミー賞優秀作品賞・監督賞を受賞した『眉山 びざん』(07)、『ゼロの焦点』(09)、『のぼうの城』(11)や『ハウ』(22)などを手掛ける。