VHSジャケットには“本篇にないシーン”が…「ワイルドシングス VHSジャケット野性の美」で味わうレンタル文化への郷愁
ジャケットに描かれたシーンが本篇にない…「それがまたいいんです」
子どもの頃に父親に連れられて行ったレンタルビデオ店で『怪獣総進撃』(68)のVHSに出会い、ジャケットに使われた写真のカットが映画本編に使われていなかったことに不思議と心惹かれたのが「すべての始まり」だったと振り返る桜井。こうした“本篇とジャケットの距離感”に魅了されたことをきっかけに、多くの作品と“ジャケ買い”で出会うことになったのだとか。
本著に収録されているロバート・ギンティ主演作『エクスタミネーター』(80)も、“ジャケ買い”で出会った映画の一つ。「ジャケットに描かれた火炎放射器を構える男の姿がカッコよくて、絶対にこのビデオを観なければいけない!という気持ちにさせられました。でも本篇を観てみると、やっぱりこういうショットはありませんでした(笑)。だけどそれがまたいいんですよね」。
1980年代にレンタルビデオブームが巻き起こり、2000年頃にはVHSからDVDへとメディアが移り変わり、その後ブルーレイディスクの登場と近いタイミングでVHSは相次いで姿を消して行った。ひいては近年、動画配信サービスの目覚ましい普及によって映画ソフト、レンタルビデオという文化そのものが失われつつある。その一方で、海外ではごく一部ではあるが、ブルーレイやUHDで出すタイトルを豪華パッケージのVHSでリリースするメーカーも存在していると桜井は説明する。
日本国内では映画ファンとVHSとの距離はますます遠くなっているが、本著の資料提供を務めた小坂裕司が運営する「Kプラス」や、京都の「ふや町映画タウン」など、VHS文化を守り続けている個人店もまだ存在している。「これらがなくなってしまうと困る人がいると思います。私もその一人です。こうした充実した在庫を持つ個人店に、この先もアーカイヴ的な機能を依存している状態でいいわけがなく、対策を考える必要があります」と、VHS文化存続への熱い想いを吐露する。
そして「この先、市場に流通する中古VHSの数はますます減っていき、探したり手に入れたりするというかつてあった楽しみがなくなることでしょう。それはすでに現実になりつつあるし、人々がVHSのことを語らない、あるいは語る材料がなくて容易に語れなくなる時がいずれ訪れることになります。そうなってしまったら非常に寂しいことです。今回の『ワイルドシングス VHSジャケット野性の美』は、おそらくそうした状況がつくらせたものだったようにも思います」。
本著の巻末には、当時のブームのなかで買い付けや企画の現場で活躍していた関係者への特別インタビューも掲載されている。貴重なデザイン資料や裏話を通し、当時を知る人は懐かしさを感じ、それを知らない若い世代はVHSというメディアのユニークな魅力に出会えるはずだ。是非とも手に取り、VHSによって広がった映画文化の一端に想いを馳せてみてはいかがだろうか。
文/久保田 和馬
桜井雄一郎, スティングレイ/編著
3,960円 (本体3,600円+税10%)
A5変型判・256ページ・並製
https://www.stingray-store.com/wildthings.html