2週連続2位で動員100万人を突破!『映画クレヨンしんちゃん』が打ち出し広まった、“大人も泣ける”路線を振り返る
お盆休み終盤の8月16日から8月18日までの全国映画動員ランキングが発表。先週、公開2週目にして首位に立ったディズニー&ピクサーの『インサイド・ヘッド2』(公開中)が今週も1位をキープ。週末3日間で観客動員37万2000人、興行収入4億9700万円と、初週対比98%だった前週の95%の成績を維持。累計成績は動員241万人、興収30億円を突破した。
『映画クレヨンしんちゃん』最新作は、友情&成長のドラマで大人の心をつかむ
さて今回メイントピックとして取り上げたいのは、前週に引き続き2位をキープした『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』(公開中)。この週末3日間の成績は、動員25万4000人、興収3億2100万円と、前週比70%の成績を維持。累計成績ではすでに動員100万人の大台を超えて、動員111万人&興収13億円を突破している。
前回の当記事でも触れたように、数年前まではゴールデンウィーク時期の定番タイトルだった「映画クレヨンしんちゃん」シリーズ。それこそ以前のテレビアニメでの放送枠と同じように、春休みの定番「映画ドラえもん」シリーズと入れ替わるように公開されるのがお馴染みの流れで、「映画クレヨンしんちゃん」が5年目を迎えた1997年には「名探偵コナン」シリーズもスタート。そこから四半世紀以上にわたり、この国民的アニメ映画3タイトルは毎年(コロナ禍での例外があったが)新作が作り続けられ、春の映画界を盛り上げてきた。
特に「名探偵コナン」シリーズと「クレヨンしんちゃん」シリーズは、2005年を除き2018年まで毎年同日公開。「名探偵コナン」が興収20億円超えのヒットコンテンツとなった1999年は、「クレヨンしんちゃん」の興収が初めて10億円を下回った年でもあり、以後は両者の差は広がり続ける一方。それでも「クレヨンしんちゃん」が作り続けられてきたのは、作品自体に一定の人気があることももちろんだが、この苦境を乗り越えるに足る大胆な方向転換に打ちだしたことが大きいだろう。
それまではいわゆる“ドタバタギャグ”路線を猛然と突っ走っていた「クレヨンしんちゃん」は、『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』(01)と『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』(02)のような感動路線、しかも“子どもはいつも通り楽しめ、大人は泣ける”という独自の路線に活路を見出した。もっとも、その数年前に「映画ドラえもん」が併映短編で感動路線にシフトしており、当時の傾向のひとつだったとも考えることができる。いずれにせよ、「クレヨンしんちゃん」は看板の長編タイトルでそれに挑んだのだ。
もちろんすぐに結果が出るわけではなく、以後もしばらくシリーズの興収は10〜15億前後を留まり続ける。しかし『オトナ帝国の逆襲』を子ども時代に“楽しんでいた”世代が、“泣ける”ことを実感する年齢に到達したタイミングで、再び感動路線の『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』(14)が公開。一度「クレヨンしんちゃん」から離れていた層を再び呼び戻すことに成功し、そこからは興収20億円を超える作品も生まれるなど、シリーズの安定感がより一層増すこととなった。
こうした子ども向けアニメ映画への新たな付加価値は「クレヨンしんちゃん」シリーズを飛び越えて、その後多くの作品へと波及していく。「映画ドラえもん」シリーズも然り、近年では予想外の大ヒットとなった「映画すみっコぐらし」シリーズも然り。今年公開された『映画それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』(公開中)に至っては、大人が一人で観に行くものではないと思われてきた「アンパンマン」のイメージをガラリと覆したことでヒットへとつながっている。
友情であったり家族であったり、古典的な“御涙頂戴”な展開を選ばずとも、子ども向けとされる作品が本来持ちうる純粋で普遍性の高いテーマは、大人にとっては感動の要素になる。それをいの一番に証明した「クレヨンしんちゃん」は、今回の『オラたちの恐竜日記』でも友情の物語を描き、しんのすけやシロの成長譚で大人世代の心をつかむ。それはいま時点での映画のヒットももちろんのこと、15年や20年先にもこのシリーズが愛され続けるための大事な一歩になることだろう。