逃げて、生き抜く姿に強く惹かれる!「逃げ上手の若君」が描く北条時行の主人公らしさ
逃げ続ける北条時行が生きることからは“逃げない”
時行は逃げ隠れの才に長けており、“逃げて生きる”ことで天下を取り戻すべく奮闘する。なにかから逃げ続けるというのはある意味、少年誌の主人公としては異色の存在だろう。しかし逆の考え方もできる。時行は、生きることからは決して“逃げない”のだ。
幕府が滅亡した当初は絶望に打ちひしがれていた時行だが、頼重の荒療治を受けるアニメ第1話では、戦火に燃える鎌倉の町に放り込まれ、大勢の敵兵に囲まれ命をねらわれるなかで死にたくないという本心に気づく。さらに異母兄の北条邦時(声:寺崎裕香)を死に追いやった裏切り者、五大院宗繁(声:伊丸岡篤)と対峙した際には、鋭い攻撃をかわしながら仲間との連携でこれを討つことに成功。逃げることに特化した時行は、その強い生存本能に従って状況を見極めながら目の前の困難を打破していく。
本作のような復讐と奪還を主軸にした物語において、逃げてでも必ず生きて目的を成し遂げようとする時行の人物像は、この上なく主人公に相応しい存在だ。それに、鎌倉奪還という大願のため、必ずしも戦いから逃げているわけではない。信頼できる仲間と共に敵に立ち向かい、逃げることすらも策に用いながら戦っている。そのメリハリのあるドラマからは目を離すことはできず、どこまでも逃げて生きようとする時行の姿に惹きつけられてしまう。本作最大の魅力はここにあると言えるだろう。
気鋭のアニメーションスタジオによる映像美と作品を彩る楽曲たち
このほか、当時の戦場で見られた残酷な行為の描写も逃げずに描き切り、それでいて圧倒的クオリティの作画を実現しているアニメーションスタジオ、CloverWorksの功績も非常に大きい。また、逃げて勝つ、をテーマにしたポジティブでアップテンポ、和風でロックなDISH//によるオープニングテーマ「プランA」に、敵も味方も、故人も生者も関係なく楽しそうにしている、ぼっちぼろまるによる和風ダンスロックなエンディングテーマ「鎌倉STYLE」も印象的で心に残る。
お堅い歴史ものにはあまり興味がない、逃げるだけの主人公は好きじゃない。そう食わず嫌いしてまだ観ていない人もいるかもしれない。しかし、そんな先入観を覆してしまうパワーが「逃げ上手の若君」には満ち満ちている。
文/リワークス(加藤雄斗)