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山田尚子監督が『きみの色』に込めた“希望の光”とアニメーション監督としての“これから”

インタビュー

山田尚子監督が『きみの色』に込めた“希望の光”とアニメーション監督としての“これから”

「生き生きとしたキャラクターを描くうえで欠かせないのは、愛情」

きみは、バンドでボーカル&ギターを担当する
きみは、バンドでボーカル&ギターを担当する[c]2024「きみの色」製作委員会

ひょんなことからバンドを組むことになった3人は、離島の古教会で練習に励み、学園祭で初めてのライブを敢行する。一つのことに一緒に打ち込みながら、音を重ねる高揚感をたくさん味わっていくトツ子たちを見ていると、こちらまで心が弾んでくるよう。これまでにも山田監督は、「けいおん!」シリーズや『リズと青い鳥』など、音と映像、キャラクターの感情が溶け合った名作を生みだしてきた。そんななか、本作における音の特徴について「3人は自分たちでオリジナルの曲を作って、その音楽を奏でていきます。だからこそ、その曲には彼女たちの夢や憧れ、反省などいろいろなものが詰まっていて、音楽自体が彼女たちの化身のようになっています」と説明。「また3人はまだ知り合って間もないので、お互いの趣味もよく知らなかったりして。全然違う雰囲気の曲を作ってきたりする。それを音楽に一番詳しいルイくんがまとめてくれたりと、そういったところもおもしろいと思います」と目尻を下げる。

音楽好きの少年ルイ。母親から将来を期待されながらも、隠れて音楽活動をしている
音楽好きの少年ルイ。母親から将来を期待されながらも、隠れて音楽活動をしている[c]2024「きみの色」製作委員会

音楽を担当したのは、『映画 聲の形』や「チェンソーマン」などの牛尾憲輔。劇中でトツ子が「きみちゃんの色を音にしたい!」とやる気を持って作る楽曲「水金地火木土天アーメン」は、彼女の天真爛漫さと、大好きな友人と出会ったワクワク感の詰まった1曲となった。「こんなに楽しい音楽が牛尾さんから出てくるとは(笑)」と同曲の印象を口にした山田監督は、「牛尾さんの楽曲はダークなものや静かなもの、一方で破壊的な印象があるものも多いので、『水金地火木土天アーメン』のようにポップでキャッチーな音楽をいただいた時は驚きました。トツ子が、牛尾さんに宿ったのかなと思います」と楽しそう。

【写真を見る】山田尚子監督が語る、ものづくりの楽しさ「自分では想像もしていなかったものが見られる」
【写真を見る】山田尚子監督が語る、ものづくりの楽しさ「自分では想像もしていなかったものが見られる」撮影/黒羽政士 ヘアメイク/宮本愛(yosine.)

また繊細な表現を積み重ねることで、何気ない日常を生きる人々の魅力があふれ出してくる点も、山田監督作品の真骨頂。本作でも、バレエ経験者のトツ子の脚が少し外向きだったり、ギターの練習をしているきみの手元、テルミンを弾くルイの仕草など、キャラクターの頭からつま先まで命が宿っている。さらにトツ子ときみが一つのイヤホンを右と左でわけて音楽を聴いたり、トツ子ときみに会えた喜びでルイの足取りが軽くなったりと、彼らの性格や、仲良くなっていく様子がちょっとした行動からも伝わってくる。


天真爛漫なトツ子がかわいい!緻密な表現を重ねることで、生き生きとしたキャラクターが誕生している
天真爛漫なトツ子がかわいい!緻密な表現を重ねることで、生き生きとしたキャラクターが誕生している[c]2024「きみの色」製作委員会

気配や体温まで感じられるような、生っぽいキャラクターを生み出す秘訣を尋ねてみると「私は根暗なので、よく人を観察していて。いま(取材時)も実は、周りの人をこっそり観察しています」とニッコリ。

まっすぐな心を持ったトツ子を例にするならば、「トツ子は、視線が上向きの軌道になることを大切にして描いています。少し夢みがちな目線をしていて、そこに彼女の幸せや憧れが宿るといいなと思っていました」とこだわりを吐露。「キャラクターデザインと作画監督を担当してくださった、小島(崇史)さんの愛によるものも大きいです。まったく照れずに、女の子たちに向き合ってくださった。照れ隠しのように『僕は男だし、女の子のことはわからないよ』と言いながらも、ものすごく肯定的に彼女たちを受け入れてくださって、ルイくんも含め、あの3人をとても愛情深く描いてくれました」と感謝しきりだ。「皆さんがトツ子を降臨させながら、作品に向き合ってくれた。やっぱり作品をつくっていくうえで欠かせないのは、愛情なのかなと思います」と実感を込めながら、「ものづくりをやっていて楽しいのは、自分では想像もしていなかったものが見られたりする瞬間なのかなといつも感じています。いろいろな人の感覚を覗き見できることは、たまらなく楽しいことです」と熱っぽく語る。

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