なぜ映画『シサム』は大物漫画家たちに応援されているのか?ハロルド作石×発起人対談で明かされる、公開までの道のり

インタビュー

なぜ映画『シサム』は大物漫画家たちに応援されているのか?ハロルド作石×発起人対談で明かされる、公開までの道のり

「時代考証や制作費の問題をクリアしながらまとめる、尾崎将也さんのテクニックはさすがです」(ハロルド)

アイヌと和人が共生してきた認識をもつ北海道白糠町で多くのシーンが撮影された
アイヌと和人が共生してきた認識をもつ北海道白糠町で多くのシーンが撮影された[c]映画「シサム」製作委員会

――今回の映画製作のきっかけは居酒屋で見かけたとあるパンフレットと伺っています。

嘉山「居酒屋に置いてあった白糠町のふるさと納税のパンフレットを見た時に、漫画編集者の血が騒いだのか、もっとイラストを使うといいPRになるのにとお店の大将に言ったのがきっかけです。22時を過ぎていたのに大将が白糠の町長に電話して、しかも電話に出てくれて(笑)。そこでご挨拶して、頼まれてもいないのにアドバイスまでしてしまって。とんでもないですよね。なのに、『ぜひ一度白糠町に遊びに来てください』と言ってくださったんです。そういえば担当している作家さんが避暑で釧路に行く予定だったことを思い出し、その話をした作家さん、さらにその後輩漫画家さんも一緒に行きたいとなったので、打ち合わせがてら足をのばそうかなと。気づけば漫画編集者と漫画家2人、電話の1週間後くらいには白糠町にいました(笑)」

――おもしろい展開、しかもスピーディー!

嘉山「そのスピード感があったからか、一緒におもしろいことをやろうという話になったんです。アイヌの方を含めて地元のいろいろな方を紹介していただくなかで、音楽フェスがいいのか、映画祭がいいのか、漫画を使ったイベントなのか…などいろいろなアイデアが出ました。行き着いたのが手塚治虫先生の『シュマリ』を白糠町で実写化するという企画でした。すごくいいアイデアだと思って『シュマリ』を読み返したら、あとがきに興味が出てしまって。『シュマリ』ではなくあとがきの実写化を手塚プロダクションに提案したのですが、残念ながら実現できず。最終的に現在のオリジナル映画を作る方向に落ち着いたんです」

アイヌとの交易を行うなかで起きた争いを描くオリジナルストーリー
アイヌとの交易を行うなかで起きた争いを描くオリジナルストーリー[c]映画「シサム」製作委員会

――映画製作の経験なしでオリジナル作品、躊躇はなかったのでしょうか。

嘉山「脚本家の尾崎(将也)さんに、お弟子さんで脚本を書いてくれる方がいないか相談するために、経緯をお話ししたんです。そうしたら、『僕がやります』と言ってくださって。そこから二人三脚で取材してプロットを作り始めたころに、作石さんと温泉に行って『実は映画を作ることになりました』ってお伝えしたんです。作石さんの漫画は実写化もされているから、映画製作に関して僕よりはるかに経験値が高い。プロットのアドバイスをもらえるかなと思っていたのですが」

ハロルド「尾崎さんとも面識があるし、彼は脚本作りを教えられる立場の方。その尾崎さんが作ったもの、ましてや時代考証と予算を反映させて何度も修正したものに、初見であーだこーだ言えるわけないですよね。意見を言うのは簡単。でもちゃんと理由があって、いろいろ考えて作り上げたものにはなにも言えないです。下手くそな脚本家さんなら、『ここはダメだよ』とか言っちゃうかもだけど(笑)。時代考証や制作費の問題をクリアしながらまとめる、尾崎さんのテクニックはさすがです」

嘉山「オリジナルでやりますと言って引くに引けなくなってしまったけれど、運よく尾崎さんが引き受けてくれて、うまくことが進み出しました」

「寛一郎さんが苦悩している若者を繊細に、かつしっかり表現していてすばらしかったです」(ハロルド)

殺された兄の復讐心に燃える孝二郎
殺された兄の復讐心に燃える孝二郎[c]映画「シサム」製作委員会

――映画製作未経験、ゼロから作り上げるオリジナル、さらにアイヌを扱うということで、大変なことだらけかと思いますが、一番難しさを感じたのは?

嘉山「やはり、アイヌというテーマを扱うことはとても大変でした。『ゴールデンカムイ』のおかげで、アイヌという存在が身近になってきたような気がしますが、とてもデリケートであることは変わっていなくて。いろいろな問題をはらんでいることは実感しました。ただ、この時代にはアイヌと和人はこういう関わり方をしていたんだと、アイヌ入門映画のように観てほしいです。また、プロデューサーという仕事の大変さも身に沁みて感じましたね」

アイヌ文化の珍しい描写も注目ポイント
アイヌ文化の珍しい描写も注目ポイント[c]映画「シサム」製作委員会

――ハロルド先生から見て、嘉山さんはプロデューサー、映画作りに向いていると思いますか?

ハロルド「いろいろな立場の人を調整していく仕事はすごく向いていると思います。でも、製作過程の話を聞いていると、いろいろな人の思惑がある大変な世界だなって」

――漫画とは違う作り方ですからね。

ハロルド「おっしゃるとおり。僕は1人で描いているので、気楽なもんです(笑)」

嘉山「僕はやってみて映画製作は向いてないなって思いました(笑)」

――公開されてみなさんの反応を見たら、またやりたくなるかもしれませんね。ハロルド先生はCGが入る前の映像で本編をご覧になっているとのことですが、いかがでしたか。

ハロルド「脚本は何度も読んでいます。戦いのシーンや海のシーン、漁のシーンなど、CGが入った完成版を観るのがいまからとても楽しみです」

――役者さんのお芝居はいかがでしたか?

ハロルド「寛一郎さんがすごくよかったです。立ち回りでかっこいいという役ではなく、新しい文化に出会って、元の世界に戻って、自分なりの行動をし始める。苦悩している若者を繊細に、かつしっかり表現していてすばらしかったです。アイヌの青年を演じた坂東龍汰さん、諫早幸作さんもよかったですね」

和人に反発心を抱く青年、シカヌサシを演じる坂東龍汰は全編アイヌ語のセリフに挑戦
和人に反発心を抱く青年、シカヌサシを演じる坂東龍汰は全編アイヌ語のセリフに挑戦[c]映画「シサム」製作委員会


嘉山「お二人とも、日本語は無し、アイヌ語しか喋っていません。今回、アイヌ役を演じていただいたキャストのみなさんは本当に大変だったと思います。頭が下がります。そういえば、先生はオーディションにも同席してくださって」

ハロルド「後ろで観察させてもらっただけですが、いろいろな人のお芝居を見ることができてすごくおもしろかったです。個人的にはKEYTALKの(小野)武正さんのシーンも楽しみです。どんな感じに仕上がっているのか」

嘉山「エキストラで参加してくださって。作石さんも面識があるので、楽しみにしてくださっているんですよね」

ハロルド「知り合いが出ていると気になるよね」

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ハロルド作石
漫画家。1987年に、「そうはいかん」で講談社第17回ちばてつや賞優秀新人賞を受賞し、同年「週刊ヤングマガジン」にてデビュー。「ゴリラーマン」「バカイチ」「ストッパー毒島」「BECK」などヒット作を手掛けた。

嘉山健一
『シサム』エグゼクティブ・プロデューサー。大学卒業後、ビッグコミックスピリッツ編集部(小学館)にて「ホムンクス」「アイアムアヒーロー」「7人のシェイクスピア」など、数々の有名作品に関わる。現在も漫画制作に関わりながら、“予防法務”の観点から顧問弁護士らと共に、漫画家などのクリエイターに対する法務サポートや契約書管理などを行っている。
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