黒沢清作品と黄色い車の関係性。念願の“ガンアクション”に「本当にやっていいんですね?」【『Cloud クラウド』公開記念インタビュー特集】
「自分の偏愛でではなく、物語からくるリアリティから逆算して車を選んでいます」
――黒沢作品に乗り物が登場する時は、ありきたりに撮られていることはありませんね。今回もまず意表を突いたのが、バイクです。走行シーンは肩から上からのみを映して、背景は合成された映像ですね。
「乗り物は嫌いではないので、ここぞという時に出すんですが、バイクはなかなか出さないんです。さりげない形ではありますが、結構思い切った撮り方をしています。ご推察の通り、バイクを止めて撮りました。本当は走ってないバイクを撮って、背景は合成ではなくスクリーン・プロセスです。それで走っているように見せられるか?これが成立するかは、ちょっとヒヤヒヤものでした。でも、見ていてそんなにおかしくはなかったと思います。ああいうふうに撮ってみたかったということだけなんですけど」
――劇中に登場するバスでも、手前を不思議な人影が通り過ぎたりして、普通の撮り方をしていないのではないかと思いました。
「バスも撮るのが結構大変でした。あれは本当にバスを走らせて撮っています。ただカメラアングルは、めちゃめちゃ凝ったところに置いてあるんですけど。ちゃんとカメラアングルが確保できる広めのバスを使って撮っています」
――そして一般車なんですが、映画に登場する車には凝るそうですね。
「めちゃくちゃ車にはこだわるんですが、日本で映画に車を出したいと思ったら、お金を出して買うなり借りるなりすれば、どんな車でもあるんです。ところが、安く済ませようとすると、タイアップでどこかのメーカーからタダで車を借りてくるということになるんですね。すると、日本の車のメーカーは、絶対貸してくれません。少なくとも僕の映画には。もっとちゃんとした映画なら、貸してくれるのかもしれませんが(笑)。だから、国産車は出そうと思っても、なかなか出せない」
――『Cloud クラウド』では、ルノーやベンツなど外車が多く登場するのは、そういう理由ですか。
「よくしたもので、フランスのメーカーは、ルノーであれ、シトロエンであれ、プジョーであれ、映画に出すというと喜んで貸してくれるんです。今回、吉井が乗る車は国産車のなにかのほうが雰囲気は合うんだよなと思いながら、最終的にルノーのカングーという車になりました。最初はカングーの古いタイプを希望したんですけど、古いタイプはメーカーも扱ってないんですね。最新型ならタダで貸してくれると言うので、めちゃくちゃ迷ったんですけど、タダよりいいものはないなということで(笑)、映画に出てくるカングーになりました」
――悪役というべき車には、ベンツが登場します。
「ベンツがいいと言ったわけではないんですが、最後にカーアクションというほどじゃないけど壁に若干激突するかもしれないので、そんなことをしてもいい黒いセダンということで、選んだんです。ベンツのあの型のSクラスだったら、ぶつけていいって言うので」
――車をキャスティングするのも、様々な条件を踏まえて選ぶわけですね
「吉井を襲うシボレーなんかは、僕が指定したわけではありませんが、向かってきて怖い車にしてほしいと言って。前面が怖そうに見える車なら、なんでもいいですと言った記憶があります」
――これまで黒沢作品に登場した車で、偏愛されている車はなんですか?
「自分の偏愛で映画に出しているわけではなくて、物語からくるリアリティから逆算して車を出しているんですよ(笑)。ただ、どれも思い出深い。そのなかでは偏愛ってほどではないんですが、『散歩する侵略者』に黄色いホンダのフィットが出て来るんです。その少し前にも『贖罪』に黄色いホンダのフィットが加瀬亮さんの運転する車として出てきて、あれは気に入っているんですけどね」
――そう思うと、今回吉井が運転しているルノーのカングーも鮮やかな黄色が際立ち、忘れがたい印象を残します。そういえば、ホンダのフィットは、黒沢作品には珍しく国産車になりますね。
「どちらの作品でも音楽プロデューサーをやっていただいた和田(亨)さんが乗っている個人の車なんですよ。『和田さん、壊さないから車、貸して貸して』ってお願いして、これもタダで借りた車なんです(笑)。黄色いホンダフィット、本当にいいですよね」
【次回予告】第3回では本作の主人公、吉井を演じた菅田将暉との対談を掲載!黒沢監督が菅田に注目したきっかけから、菅田が「警報」と称する黒沢組特有のムードまでたっぷりお届けします。
取材・文/吉田伊知郎