『ラストマイル』が動員ランキングV2達成!“シェアード・ユニバース”だけじゃない、TBSドラマと映画の斬新な関係性を振り返る
夏休み最終週となった8月30日から9月1日までの全国映画動員ランキングが発表。先週、初日から3日間で興収10億円に迫るロケットスタートを飾った『ラストマイル』(公開中)が、2度目の週末3日間も動員46万8000人、興収6億3900万円と、2位以下を大きく突き放して2週連続Vを達成。はやくも累計成績では動員152万人、興収21億5000万円を突破している。
“シェアード・ユニバース”はテレビドラマの劇場版を変える一手となるのか?
「アンナチュラル」と「MIU404」、主要な登場人物もストーリーも別々のテレビドラマと世界観を共有する“シェアード・ユニバース”という、日本映画ではあまり例のなかった手法で話題をさらっている『ラストマイル』。今回はこうした、ごくごく一般的な“テレビドラマの劇場版”とは異なる手法を取り入れたTBSのチャレンジングな作品にフォーカスを当てていくことにしよう。まず大前提として、『ラストマイル』はそもそも“テレビドラマの劇場版”ではないということは強調しておく必要があるのだが。
2000年代前半ごろの“劇場版”ブーム初期から、TBSでは「ケイゾク」や「木更津キャッツアイ」などの人気作の劇場版が作られヒットを記録。その後もメガヒットを記録し“キラキラ映画”という新たな潮流の火付け役にもなった『花より男子ファイナル』(08)や、複数の劇場版が製作された「SPEC」シリーズなどが成功を収め、“ドラマのTBS”という呼び名に恥じないだけのクオリティと、映画館で観るにふさわしい劇場版作品を連発。昨年大ヒットを記録した『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(23)も然りだ。
もっぱらそうした“劇場版”が作られる作品というのは、それなりに視聴率が高い人気作であったり、少なくともプライム帯に放送されるような知名度の高い作品が中心であった。また劇場版も2本作られている「新参者」のように原作があるものを除けば、テレビドラマよりもスケールが大きく、かつテレビドラマでひとつ区切りのついた物語のさらに先を描く“集大成”的なパターンがいまでも常套である。
そうしたなかで、斬新な試みが行われた作品のひとつが『赤い糸』(08)。テレビドラマの放送期間中に劇場版を公開させ、両方の物語が併行し、最終的にはテレビドラマの終盤のエピソードで物語が帰結する。興行的には興収11億5000万円とまずまずのヒットを記録したとはいえ、爆発的な反響は得られず、もちろん同様の手法を取り入れる作品もほとんど出てきてはいない。それでも同作の主題歌からインスパイアされた新たな物語が(別作品ではあるがこちらもドラマと映画の両方で)作られたことで、再び注目を浴びようとしている点は興味深い。
またTBS系列のMBSで2016年にスタートした「ドラマイズム」枠も、「咲 -Saki-」や「賭ケグルイ」「映像研には手を出すな!」、最近も「マイホームヒーロー」と、原作ものを中心にテレビドラマと映画が一体となった作品を次々と登場させてきた。それは同時に、余程の人気作しか実現しづらかった深夜ドラマの劇場版をより一般的にさせるきっかけを作ったといってもよいだろう。さらに『99.9-刑事専門弁護士- THE MOVIE』(21)では、テレビドラマと同じスタイルのエンドクレジットを採用。劇場版スケールの物語を見せつつも、“テレビドラマの安心感”をそのまま映画館に持ち込むという不思議な感覚を生みだした。
このようにテレビドラマと映画の関係性ひとつ取っても従来の劇場版の手法・構造を変える斬新な試みを繰りだしてきたTBS作品。今回新たに取り入れられた“シェアード・ユニバース”という手法も、こうして大ヒットという結果を生んだとなれば、そろそろマンネリ化しつつある現在の劇場版ブームを刷新する重要な一手になるはず。そして同時に、『ラストマイル』でメガホンをとった塚原あゆ子監督が次作『グランメゾン・パリ』(冬公開)で王道の劇場版をどう料理しているのか期待が高まるいっぽうだ。