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テリー・ギリアム監督が語る、ヒース死後に考えたこと

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テリー・ギリアム監督が語る、ヒース死後に考えたこと

ヒース・レジャーの遺作『Dr.パルナサスの鏡』(公開中)は、ジョニー・デップ、ジュード・ロウなどのスターの助け舟でようやく完成した。本作のPRで来日したテリー・ギリアム監督に話を聞いた。

やはり聞いておかねばなるまい。2008年1月22日ヒースの死を知った時、監督は何を考えたのか?

「最初は『ダークナイト』のプロモーションだろうなんて思ったよ。でも、すぐにそれは冗談でもプロモーションでもなく本当のことだと分かった。……信じられなくてね、何も考える事ができなかった。僕らは何時間も床に横たわり天井を見つめていた。映画のことなんかどうでもよかった。ただ大好きな大切な友人が死んでしまったことに絶望していたんだ」と、お茶目な鬼瓦のようなギリアム監督の顔が沈痛そのものの面持ちに変わる。

「もうこの映画は終わりだと思っていた。ところが、みんなが“ヒースのためにも作品を完成させるべきた”と言い始めたんだ。誰もがね、ヒースの素晴らしい最後の仕事を封印することは好まなかったんだ」と、監督の顔にほほえみが戻ってきた。

今回は20年ぶりのギリアム監督のオリジナル脚本。『未来世紀ブラジル』(85)や『バロン』(89)で、オリジナル脚本の世界を貫こうとプロデューサーとバトルを繰り広げた歴史があるだけに、よくぞプロデューサーが見つかったものと思う。

過去の騒動はもう忘れられているのでしょうか?と聞けば、ギリアム監督はニヤリとして、「まぁ、悪いことは忘れるってのは僕だけの特技じゃない、ってことかな(笑)。ハリウッドのメジャー・スタジオやプロデューサーたちにも忘れてもらいたいもんだね、スタジオと仕事するのは簡単で楽しいからな」と、皮肉っぽく笑う。

今回の主人公パルナサス博士はあなたの分身だと聞きましたが?と振ってみた。

「僕の一部、ではあるな。なりたいと思っている、といったところかな。パルナサス博士のキャラクターには確かに僕自身の経験が生かされている。人々の想像力を刺激して、世界の見方を変えてみようと誘いかけ、しばしば挫折しては怒り、悲しむあたりね」と、手にした湯飲みをもてあそびながら、言葉を続けるギリアム監督。

「今、世界の善と悪は曖昧さを増して、グレーゾーンが広がっている。なのに、人は常に白か黒かといった選択を求められている。そんなとき彼らは自分の世界観ではなく他人の作った世界観に惑わされて選択してしまうんだ。それは悪魔の導く世界なのかもしれないのに。パルナサスは鏡の向こう側に入り込んだ客にそれを気付かそうとするんだけどね。まぁ、そのパルナサス自身、娘を悪魔に取られそうになって初めて自分の世界観に娘を閉じ込めようとしていたと気付くんだ。大進歩だよね」と、ギリアム監督は珍しく真面目な顔で答えてから、いたずらっぽく笑った。

別れ際、「前に会ったとき、君は僕をハグしてくれたんだってね。じゃあ、今度もハグしようぜ」と大きな体でムギュゥッと力強く筆者をハグしてくれた。肉厚の、大きな、温かい体だった。作品にかかわったすべての人の悲しみを乗り越え完成した『Dr.パルナサスの鏡』。ギリアム監督のイマジネーション世界へ、案内人のヒースやジョニーと一緒に飛び込んでみてほしい。【シネマアナリスト/まつかわゆま】

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