「あくまでも3人の物語であり、”ふれる”はそれを繋ぐもの」
アイデアが出ていく過程で「田中さんが画を同時に作ってくれていて。そのなかにハリネズミのような形のキャラクターがいて、それだったら、糸で繋がっている、針で繋がっている感じもあるなって。ファンタジー要素を担う“ふれる”のキャラクターをどう描くのかは、脚本を書くうえでとても重要なポイントだと思っていたけれど、それは前面にでてはいけない。あくまでも3人の物語であり、それを繋ぐものであることを意識するように切り替えました」と監督、脚本、作画監督&キャラクターデザインからの観点を加味したうえでの設定作りを丁寧に説明した。
秋、諒、優太に絡んでくる女子、樹里(声:白石晴香)と奈南(声:石見舞菜香)も印象的なキャラクターだ。「20歳くらいの年齢って、すごく男女差がありますよね。相手がなにを考えているのかわからない…という葛藤が描かれている物語なので、そういった意味でも『女の子の気持ちがわからない』みたいなところを描くのもおもしろいかなって」と2人の登場理由を語る。「最初は奈南のほうが強めで、樹里のほうがおとなしめの設定にしようと思っていたのですが、長井監督と田中さんが樹里が好きだ、好きだというので(笑)。樹里の設定を少し調整していきました。奈南のような自己肯定感の低い女の子って結構多いですよね。そこが優しさにつながる部分でもあるけれど、誤解を生むところでもある。人からどう見られるかどうかに関しては、女の子、特にこの年頃ってかなり敏感。それまでに得てしまっている武器ややり方を使って、一番トラブルを起こしがちな時期なのかなとも思っていて。アニメではそういうタイプのキャラってなかなか描ける機会が少ないので、かなり冒険でした」とのこと。基本的には優しくない子はいないけれど、ちょっと自己評価の低い子たちの集まりという印象があるとも指摘していた。
ファンタジー要素がありつつも、人間関係はリアルに描かれている。「出来上がった作品を観た時に感じたのは、地に足がついているパートが長いということ。長井監督は本当にこの男子3人の話にしたかったんだなと実感しました」との感想を持ったという。“ふれる”というこんなにかわいいファンタジーなキャラクターが出てくるのに、現実的でシリアスな部分が描かれているんだと強く感じたとし、「攻めている感覚を覚えました」と力を込める。
「アニメはスタッフの組み合わせで変わる」と前置きし「作家性みたいな言い方もあるけれど、監督だけとか脚本だけとか、それだけの作家性というのは絶対になくて。共同作業になってくるものだから、この座組の空気感のようなものがすごく濃くなってきたというのを強く感じました」と、冷静に作品の仕上がりから受けた印象を語り、作品を積み重ねてきたからこその色も出てきたとしみじみする場面も。「脚本を書き終えたのは3年くらい前。久しぶりに再会した感覚もあって、すごく新鮮で独特だなって思いました」と3人が生み出す物語の特長を改めて実感したようだ。