「想定内じゃないキャラクターになったことが本当におもしろかった」
映画のタイトルに「。」をつけたのには、どんな意味があるのだろうか。「“ふれる”はキャラクターの名前だけど、本作はなにかに触れることの物語であり、人とちゃんと接しようとする物語です。“触れる”ことが重要だから『。』で終わらせる、みたいな意味があるのかなと思っています」と丁寧に教えてくれた。
上京した3人が共同生活を始めたのは高田馬場。この地は岡田のゆかりの場所でもあるという。「長井監督は私が住んでいて、作品に使いたくないと思っているところを使いがちというジンクスがあって(笑)。ロケハンでピンとくるところがないと話していた時に、もし提案したらきっと採用するだろうなと思ったんです。なぜなら、彼が好むものが全部ある場所ということはわかっていたから。いろいろ見てダメだったら、高田馬場はどう?と提案したら、やっぱり決まりましたね。実家があるわけでもない、昔住んでいた場所というだけなので、いいかなとは思いましたが、ジンクスは生きていました」と苦笑い。3人が高校卒業と同時にではなく20歳で上京した理由については「夢がやたらめったら無尽蔵に広がっている上京ではないということですね(笑)」とキッパリ。挫折したわけでもないけれど、2年間島で暮らしてから東京に行くということでちょっと描き方が変わる気がしたとも補足した。
秋、諒、優太の声を担当した3人の印象は「人としての成立度がすごい!」だった。秋は見た目と性格にかなりのギャップがあるキャラクターだと話し、「あの性格にこの見た目ってなかなかついてこないと思うんです。そして永瀬さんの繊細な声も、いい意味で想定外なのがすごくよくて」と持論を展開していく。「あの見た目ならもっと低くて太めの声を想像するし、性格だけなら外見は弟タイプをイメージする。見た目と声と性格と、すべてがお決まりのマッチングじゃないからこそ、秋という人がここにいると思えるんです。想定内じゃないキャラクターになったことが本当におもしろかったです」とお気に入りの様子。諒は真面目さとピュアっぽさのバランスがいいとし、アニメが好きな優太役の前田の読解力の凄さにも感心したそうで、「キャラクターの魅力を、それぞれ最大限に引き出してもらえました」と太鼓判。続けて「脚本を書く時は、声優さんをあてがきするのがベストだと思っていましたが、脚本を書いた時のイメージから変わることもこんなに面白いんだ、という発見がありました!」とうれしそうに語っていた。
観る者の心を揺さぶる作品を生み出し続けている岡田にとって、制作の糧になっているのはどんなものなのだろうか。「アニメーションのおもしろいところは共同作業だということ。現場によって求められる自分が違うのが共同作業の楽しさだと思っています。自分が好きだと思っていないことを求められるのは楽しいし、よくぞわかってくださいましたというものを求められるのもやっぱりうれしい。脚本家としての自分が監督にどう見えているのかの答え合わせというのかな。自分のなにかを欲してもらえるというのは、創作意欲につながる気がしています」とのこと。付き合いの長い長井監督については「ものすごく難しい監督さんです(笑)。彼が嫌なもの、好きなものはなんとなくわかるけれど、気楽には書けない。すべて見透かされてしまう感じがするんです。長くやっているからこそ逆に気を抜けないというか、そんなところに楽しさを感じるし、心を震わされる気がします。この人たちのなかで、こんなふうにいられることの喜びというのかな。いつも初めて作品を作った時のような気分にさせてくれる座組です!」といい意味で“慣れない”チームとの作品作りでしか得られない感覚があると語った。
取材・文/タナカシノブ