故イ・ソンギュンが映画人から愛された理由とは?「In Memory of Lee Sun-kyun」で涙を見せた俳優たち|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
故イ・ソンギュンが映画人から愛された理由とは?「In Memory of Lee Sun-kyun」で涙を見せた俳優たち

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故イ・ソンギュンが映画人から愛された理由とは?「In Memory of Lee Sun-kyun」で涙を見せた俳優たち

10月2日より開催された、第29回釜山国際映画祭(以下BIFF)。華やかなゲストの登壇や興味深い撮影ビハインドなど、にぎやかな時間が過ぎていくなかで、ただ厳粛な空気に包まれるひとときがあった。今年設けられたセクション「Special Program in Focus」の1つ、昨年急逝した故イ・ソンギュンを追慕する企画「In Memory of Lee Sun-kyun」だ。『ソニはご機嫌ななめ』(13)、『最後まで行く』(14)、ドラマ「マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜」第5話、『パラサイト 半地下の家族』(19)、『幸せの国(原題)』が上映されると共に、監督と共演者らが一堂に会した観客との対話が行なわれた。

チョ・ジョンソクが涙…明かされた『幸せの国』の撮影秘話

『幸せの国』は、1979年10月26日に実際に起きた朴正煕大統領暗殺をベースに、上官だった主犯の命令で事件に巻き込まれた秘書官パク・テジュと、彼の弁護を担当したチョン・イヌの苦闘を描いている。イ・ソンギュン扮するパク・テジュは、暗殺事件の後に実権を掌握したチョン・サンドゥの企てによる不当な裁判で極刑に科されようとしていた。

【写真を見る】極刑を静かに待とうとしていたパク・テジュ
【写真を見る】極刑を静かに待とうとしていたパク・テジュ[c]Everett Collection/AFLO

ソウルの春』(23)にも繋がる近現代史の闇に光りを当てる本作は、それだけ俳優陣の重い決意と演技への悩みが尽きなかった。イ・ソンギュン演じるパク・テジュも本作では高潔な人間として描かれてはいるが、別の視点で見れば民主化運動の市民を痛めつけることもあったはずで、イ・ソンギュンの苦悩も想像に難くない。チュ・チャンミン監督は、剛直なキャラクターを離れた素の柔和さが印象的だったそうだ。

「撮影に臨む時は誰よりも集中していて情熱的な方ですが、スタッフたちがセッティングしている合間に雑談で気持ちをほぐしてくれたりしました。撮影中、テジュは刑務所に閉じ込められている状況で複雑な考えが内在しているはずなのに、よくそういうことができたと不思議でした」。

ユ・ジェミョンも「撮影現場こそが『幸せの国』だったというほど、心強くて楽しかったです。まるでいたずらっ子のようなおじさんたちが集まって、表現についての悩みや心配を共有しお互いに頼っていたことが記憶に残っています」と、イ・ソンギュンとの思い出を振り返った。

撮影現場の雰囲気の良さを振り返ったユ・ジェミョン
撮影現場の雰囲気の良さを振り返ったユ・ジェミョン[c]BIFF

チョ・ジョンソクは、一番印象深かった共演シーンでを聞かれると、取調室でテジュと面会する場面をあげながら、「その場面すべてとても楽しくておもしろくて、時にはもどかしくて、色んな感情を感じました。たくさん会話をし、笑って撮影する時もありましたが、 切実な気持ちでした。特に最終弁論シーンでは、映画の結末を知っている私としては、最後までこの人の命だけは守ろうとするのでとても辛くて、没頭するあまり感情があふれ出て大変でした」と答えた。

「すべて今も忘れられない」という刑務所でのシーン
「すべて今も忘れられない」という刑務所でのシーン[c]Everett Collection/AFLO

本作は図らずも、イ・ソンギュンの遺作の1つとなった。そのことについてチョ・ジョンソクは、「(イ・ソンギュンが亡くなったとき)最初はとても悲しかったです。 今はなかなか会えずにいるだけで、どこかで生きているような…そんな気がします」と、涙声で言葉を途切れさせながらつらい心境を口にした。

最後は涙を溢れさせたチョ・ジョンソク
最後は涙を溢れさせたチョ・ジョンソク[c]BIFF

彼の言葉にもらい泣きしかけつつユ・ジェミョンは、「あるラジオのオープニングで、映画は懐かしければもう一度見れるが、人は懐かしくても二度と見ることができないと言っていました。 私はプレゼントをもらったと思います。イ・ソンギュンが見たければ、私たちの映画を見ればいいからです。 そのプレゼントのおかげで、いい作業を同僚たちとできたのではないでしょうか」とコメントした。

感極まるチョ・ジヌン「どうか忘れないでほしい」日本でもリメイクされた傑作サスペンス『最後まで行く』

『最後まで行く』でイ・ソンギュンは、汚職に手を染めた殺人課の刑事ゴンスを演じた。質の高い脚本とスピーディーな演出、そしてイ・ソンギュンとチョ・ジヌンという二大俳優の力強い演技力で物語が疾駆する痛快なサスペンスだった。

ひき逃げを隠蔽するため前代未聞の手段に出るゴンスだったが…
ひき逃げを隠蔽するため前代未聞の手段に出るゴンスだったが…[c]Everett Collection/AFLO

登壇したのはキム・ソンフン監督と、ゴンスをつけ狙う悪徳刑事パク・ジャンミンを演じたチョ・ジヌン。キム・ソンフン監督は「初めて話したとき、イ・ソンギュンさんの質問が『なぜ私なんですか?』でした。自分がゴンスに合わないのでは?と思ったようです 」と、キャスティング秘話を打ち明けた。また、「『最後まで行く』という心理状況を捉えるため、ゴンスの不安な目つきをクローズアップで撮影しようとしましたが、言い過ぎでもなくとてもハンサムだと思いました。役割を無限大に提示できるようなインスピレーションを授けてくれる方でした。俳優としても、人としても笑うのが本当にきれいでした」と、彼が感じたイ・ソンギュンの印象について語った。

チョ・ジヌンは、「お酒を飲んだ勢いで振り返る暇もなくそのまま走ったような映画でした」と、エキセントリックで暴力的なジャンミンに扮した苦労を語った後、過激なアクションが続く本作でのイ・ソンギュンとの撮影秘話を懐かしく振り返った。

むせび泣きとなったチョ・ジヌン
むせび泣きとなったチョ・ジヌン[c]BIFF

またチョ・ジヌんは、「人間イ・ソンギュンは、人の心のうちに触れるような表情がある方。自分に兄はいないが、兄ができたと思いました。現場に入り2人で着替えるとき、前日のあざが治らないまま当日も新しいあざができていました。互いに鏡を見ながら『今日は何だか仕事した気分だな』と言うような名誉の負傷でした。でも私がバスタブで馬乗りになるシーンで兄さんが悲鳴を上げたので『そんなに?』と思っていたら、腰にひびが入っていたんです」と今だから話せるエピソードを披露した。

激しいアクションゆえに怪我が絶えなかった『最後まで行く』
激しいアクションゆえに怪我が絶えなかった『最後まで行く』[c]Everett Collection/AFLO


明るい表情でトークを始めたチョ・ジヌンだったが、最後にキム・ソンフン監督からの「10年前、この映画を作る一番の原動力がイ・ソンギュンという俳優でした。 私にプレゼントのような存在として現れてくれて、撮影をすることがこんなに楽しいことなんだと思わせてくれました」という一言を聞くや、堪えていた涙で言葉が出なくなった。疑惑が明るみに出たとき、イ・ソンギュンはキャスティングされていたいくつかの作品を自主降板したが、その1つ「NO WAY OUT:ザ・ルーレット」で彼は代役を引き受けた。並々ならぬ絆を結んでいた友への思いで「ずっと(イ・ソンギュンを)忘れないでください…」と口にするのが精いっぱいだった。


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