アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第34回 噂

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アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第34回 噂

MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第34回は2人のお騒がせYouTuberが登場!?

イラスト/Koto Nakajo

ピンキー☆キャッチ 第34回 噂

広大な敷地の防衛省の建物内でも奥まった棟に、特別留置室はある。何者かを拘留する目的の部屋ではなく『有事の際、相当な理由があった場合に拘束する事が出来る部屋』といった、あくまで名目上の部屋だ。都築も入室するのは初めてだった。

部屋前で警備をしている職員が分厚い鉄扉を引いてくれた。中は10畳ほどの広さで、取調室のように中央に木製テーブルが置いてあり、3シーターのソファが対面している。6名の職員に取り囲まれ、ソファには2人の若者が項垂れて座っていた。内部の人間に見せかけようとしたのだろう、どちらも藍色の作業着を着用していたが、生地の質感でそれと違うことは一目瞭然だった。

「第四隆起物、四ツ谷駅方面ですね。あちらのテント内に侵入していたところを現場担当職員が確保しました。住所・氏名等は身分証から確認済みです。何やら内部で動画を撮影していたとのことで」

「そうか、少し話を聞かせてもらう」

テーブルには没収した家庭用のビデオカメラと、2人のスマートフォンが置かれている。都築は吉崎にならって対面に腰掛けた。

「まずはそうだな、目的を聞かせてもらおうか」
「・・・・そこの人にもう話しました」
「ああ。重複する部分も出てくるだろうが、お願いできるかな」
「・・・・・はい。ええと、、、ネットに書き込まれてた噂を見て、検証動画を撮ろうと思ったんです」

背の高い方がポツリポツリと説明を始めた。職員から手渡された二人の身分を示すメモを見ると、どちらも24歳のフリーターとのことだった。

「噂?どんな噂だろう?」

「色々です。防衛省の地下で化学実験が行われてて、それが失敗したとか、、。あとはどこかの国からミサイルを撃ちこまれたけど不発だったとか」

都築は胸を撫で下ろした。ここまでの規模になれば何かしらの噂を立てられる分には仕方あるまい。しかしこうして話を聞いてみると真実は漏れ出ていないようだ。吉崎が続けた。

「そうか、そんな噂がなあ。しかしどんな噂がたったにせよ、規制された場所への侵入は誉められたことではない。それは分かるだろう?」
「・・・・ええ、それはまあ」

吉崎はあくまで穏やかな口調で諭していたが、黙り込んでいた小柄な青年が急に声を荒げた。

「でっ、、でもよう! ニュースで散々水道管の問題とかいってたけどさあ、おかしいじゃんか!こんな何日もかかって、それにこの辺の水道だって不具合が出てる地域は一つもねえって書いてあったんだぜ!?おかしいじゃんかよ!」
「不具合が出たのは防衛省用の独立した配管だ。構造上の機密事項があるから詳細は教えられないがね」
「だけどよ・・・。俺ら見たんだよ、あのテントの中。なんだか分からねえけど色んな難しそうな機械が並んでて、内側はもっと厳重で!水道管のメンテナンスであんな機械使う必要ねえだろう!?」
「ああ、それはだな・・」

吉崎がさすがに口詰まった時、長身の方が加勢するぞと割り込んできた。

「あっ!あれもそうなんでしょう!? 翔太とKAHOの結婚も、この事件から目を逸らさせるために国が仕組んだ結婚なんでしょう!?」

室内の空気が一度ピタッと止まった。職員達は目を丸くしてお互いの顔を見合った。次の瞬間、全員がワッ!!と弾けたように笑い転げた。有事の最中に、あまりにもピュアであまりにも馬鹿げた理屈が意外な角度から飛んできた。緊張と緩和の瞬発力が作用し、普段表情を崩さない吉崎も都築も堪えられなかった。吉崎はソファの手すりにもたれかかりながら細かく震えていたが、深呼吸を一つつくと、若者達に向き直った。

「いや笑ってはいけないな、すまない。うん。ええと、君達の理屈で言うと、我々防衛省が自分たちの不祥事を隠蔽するために・・・・その・・・・翔太とKAHOを無理やり結婚させ・・・・・・・ククククッッッ・・・何かしらの方法で結婚を命令し・・・・・・ウウウッッ・・いや済まないッッ」

腹痛と同じだ。人間は一度笑いのツボに陥ってしまうと安易には抜け出せず、波が完全に収まるまではまた頭の中で反芻し、吹き出してしまうものだ。吉崎は手で顔を覆いながら、都筑にここから先を担うよう、ジェスチャーで指示してきた。都築は震える肩が収まるのを待ち、大きく深呼吸をした。

「ええと、まず、翔太とKAHOに我々防衛省が絡んでいるという噂はっっ・・きっっ! ・・・すみません・・・・・しかし防衛省内の一体誰が二人に結婚の圧力をっっ! プハッ!!」
「カハッッ!!ボハァッッ!!!」

記録を取っていた職員が堪え切れずに再び吹き出した。こうなるとまた連鎖するだけだ。もう諦めたように職員一同は笑い転げた。まるで修学旅行の夜のように腹を抱えた。その間、二人の若者は恥ずかしそうに下を向いていた。空気が徐々に落ち着いた頃を見計らって、吉崎が口を開いた。

「いや、思いもよらない話だったので取り乱した。申し訳ない。しかし二人の名誉のために付け加えておくが、無論あの結婚に関しては国も防衛省も関与していない」
「ファンはたくさんいるにせよ、知り合いがいるという話すら聞いた事がないよ。あくまで、、、ククッ、、、あくまでネットの悪ふざけだ」

都築が話を継いだが、また吹き出しそうなので天井を見上げて耐えた。本来こうした事が起きたのであれば二人を警察に引き渡すべきであろうが、ことは荒立てたくない。吉崎の判断で録画機器の当該部分だけを本人立ち合いのもと消去し、返却。口外禁止の誓約書を書かせた上、今回は解放すると決めた。
大真面目な問いかけがあそこまで笑われてバツが悪くなったのだろう。ひとしきりの作業を終えると、二人は職員に付き添われて敷地から帰って行った。

「吉崎さん、あのまま帰らせて良かったんでしょうか?」
「住所も家族の名前も控えたし、機密情報を漏らせば次こそ逮捕だと言っておいた。まあそこは大丈夫だろう。怖いのは怪我人を出してしまうことだ。常駐警備の強化指示も出しておいたが、本来突起の中身が何なのかはっきりするまでは職員でも近寄らせたくないんだ」

「あ!こちらにいらしたんですね」

分析チームの成宮が小走りで寄ってくると、2枚の用紙を差し出した。何やら心電図や地震計で見るような、波線のデータだった。

「ちょっと見比べて下さい。こちらは突起物の振動をデータ化したグラフです。微弱ですが一定のリズムで振動が起きていますよね?」
「ああ、これは先ほども見せてもらったがこれが何か?」
「このリズムや全体の間隔が気になって調べてみたんです。こちらもご覧下さい」

もう一枚の用紙も同じように波打ったグラフだった。

「これは?同じものかな?」
「微妙に違うんですが振動の起こるポイントや強さ、間隔も含めてよく似ています。実はこれ、卵からヒナが孵る前の振動なんです。ニワトリや蛇やその他の動物達の卵の振動、それらの平均値をデータ化したものです」

都築と吉崎は顔を見合わせた。何となくの予感はあったが、それは最悪の想定であった。しかしその想定が、現実として起ころうとしている。

「・・・つまり?」

「はい。あの突起物は何者かの卵です。内部には生命体が潜んでいるとみて間違いないでしょう」

(つづく)

文/平子祐希

■平子祐希 プロフィール
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。
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