上田慎一郎監督が目撃した内野聖陽の“すごみ”と岡田将生の“存在感”。『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』撮影秘話
「岡田さんが氷室役を引き受けてくれて本当によかったなと思っているんです」
――内野さんの、休日に熊沢っぽいメガネを見つけたと監督に連絡してきたり、役のことを考える熱量に感銘を受けました。さて、映画も「見事にダマされた!」と好評ですが、物語の時系列としてはドラマ版を観てからですと、より楽しめるかもしれないですね。
「どちらからご覧になっても楽しめるようにつくったつもりではいますけど、僕としては、先に映画を観てからドラマ版で過去に戻るのも一興かな、なんて思ってもいて(笑)」
――ドラマ版では氷室が仲間たちといかにして出会い、契りを結んでいくかが描かれていますね。
「そうですね。森川葵さん演じる白石未来が、映画での熊沢的な立ち位置になっていて」
――これはよくないのかもしれませんが、だんだんと氷室のセリフには全部ウラがあるんじゃないかと、穿つようになってしまって(笑)。しかも、岡田さんの表情も読みづらくて…。
「そこは岡田さんを氷室役にキャスティングした理由の一つでもあるんです。ポジション的には主人公側ではあるんですけど、いつ裏切ってもおかしくないような、なにを考えているのかわからない危うさも漂わせているのは、岡田さんの存在感によるところが大きくて。しかも、役のことをしっかり理解して、妥協することなく演じてくれたので、氷室役を引き受けてくれて本当によかったなと思っているんです」
「映画の中で起こることすべてに対して、正直かつ誠実であろうとする」
――いっぽう、改めて聞くのも野暮かもしれませんが、内野さんとご一緒されてみて、どこにすごみを感じられましたか?
「ひと言で語るのは難しいし、僕が言うのもおこがましいですけど、役者が天職でいらっしゃるのだろうな、と思いました。変な話、お金がもらえるとかもらえないとか関係なく、ずっと役者として生きていかれる方なのだろうな、と。役づくりをする、演じることが楽しくて仕方ないと思わせてくれる方で、本当に妥協がないんです。脚本の打ち合わせをした時も、人物造形としての行動原理に筋が通っているかどうかを、きっちり腑に落ちないと演じられない。『まあ、やっちゃおう』と、なし崩し的に芝居することがないんです」
――役に対して、そして芝居することに対して真摯ゆえ、なんでしょうね。
「例えば、『ここで踏みだしてください』という演出に対しても、本当に踏みだす必然性がないと踏みだせないよ、ということなんですよね。芝居ではありつつも嘘がない、と言いますか。ややこしい話かもしれませんが、映画やドラマってフィクションですけど、物語の中に身を置いている間は常に本当の感情で動きたい。だからこそ作品を観ている人にも信じてもらえるんだ、というのが信条と言いますか。劇中でも『詐欺の基本は嘘を本当に見せること』というセリフがありますけど、実は結構、芝居や映画に掛けて書いた文言でもあるんです。映画自体が嘘を本当に見せるものだったりしますが、映画の中で起こることすべてに対して正直かつ誠実であろうとするのが、内野聖陽という俳優さんのすごみなのかな、と。そこに尽きますね」
――あのセリフにはそういった意味も込められていたんですね。内野さんの役者としての信条には、さすがの一言です。
「同時に、バランス感覚も備わっていらっしゃって。映画の前半で、矢柴俊博さん演じる亡き親友の岡本を罠にはめたのが橘だと知って、熊沢が氷室のいるアジトへ向かっていくシーンがあるんですけど、少し前まで雨が降っていて水たまりができていたんですね。そこで橘への怒りを表すのに、水たまりをバシャバシャと歩いていくのはどうかと提案してくださったんです。僕も『いいですね、やりましょう』と言ったんですけど、突然出たアイデアだったので、『衣装の替えがあるかどうか、衣装さんに確認しないとね』と、内野さんがおっしゃって。で、衣装部に『バシャバシャやっても大丈夫ですか?』と聞いたら、衣装さんも『大丈夫です』と言ってくれたんですが、すかさず内野さんが『監督がそんな聞き方をしたら断れないでしょ。やっぱり、やめよう。ごめんごめん』って、結果的にはとりやめたんです。なので、単におもしろいことを思いついたからやるのではなくて、それをやることによって現場全体にどういう影響があるのかを、ちゃんと考えていらっしゃるんですよね。その心遣いに、僕はいたく感動しましたし、現場のことを隅々まで配慮しなければいけないなと、改めて考え直すきっかけになりました」
取材・文/平田真人